第12話:悪役ジジイ、座席に座る若者を蹴散らしたはずが、全て迷惑客で周囲から賞賛される
「ジグ様、魔導列車って外から見るより広いんですね~。歩いても歩いてもたどり着けない気がします~」
「……あぁ、そうじゃの」
楽しそうに傍らを歩くコレットに、不機嫌な気持ちで答えた。
俺たちは今、魔導列車の売店に向かっている。
なんか車内販売なかった。
ゲーム時代はちゃんとあったのに、50年の変遷で中止になったらしい。
だから、「車内販売がないとは何事じゃ!」と怒鳴りつけてやる。
おまけに、売店は自由席の三等車両の真ん中にあるからちょっと遠い。
……ククッ、まぁいい。
この俺を歩かせるとは良い度胸をしているな。
老害ムーブのネタが増えたと思えばいい。
三等車両に入って進んでいく。
ボックス式のシートで、チケット代が一番安くて座席も多いからか結構な混み具合だ。
とはいえ、乗客は座っているので通路は歩ける。
……が、途中で腹立たしい事案が発生。
「ギャハハハハハッ! お前の手札よっわ! はい、俺の勝ち~!」
「うるせえよっ! 今日は調子が悪いだけだ! もう一回やるぞ! 次で全部チャラにしてやる!」
「おいおい、大丈夫かぁ? この前もそう言って大負けしてたじゃん。ちゃんと金払えよな~」
十六歳前後の若者が五人ほど、座席と通路を占領している。
大騒ぎしながらトランプ的なカードで遊んでいた。
自分たちの物と思われる荷物や大量のゴミが散らかり放題な様子を見て、コレットは険しい顔で呟く。
「た、大変なことになっています。座席が……」
「ああ、そうじゃの。これは由々しき事態じゃ。早急に対処せねばなるまい」
「ジグ様……(やっぱり、ジグ様は"正義の賢老"でいらっしゃる。悪事を見過ごせないその清く正しい心が……私は好き……)」
死ぬほどムカつくな、あの若者グループ。
占領しているせいで通路に人が溢れて通れないのだ。
マジでいい加減にしろよ。
魔導列車はチケットがないとそもそも乗車できないので、若者グループが不当に座席を占領していることは容易に想像ついた。
前世の電車は全席優先席で当然の如く老人しか座れず、俺が椅子に座れたことは数えるほどしかない……という記憶が思い出され、やりたい放題されたストレスも蘇る。
乗客をかき分けると、全部発散してやるつもりで若者グループを怒鳴りつけた。
「お主ら何やっとるんじゃ! どれだけ(ワシに)迷惑をかけているのかわかっておるのか!? 生まれる前からやり直せ! 迷惑をかけるな(ワシに)! ……まったく、最近の若者はなっとらん!」
耳にタコができて腐り落ちるほど聞いた、老人の代名詞たる決めゼリフを言い放つ。
まさかこの俺が言うことになるとは思わなかったが、人生とは不思議なものだ。
若者グループは動きを止めると、仲間と顔を見合わせる。
しばし沈黙が車内に横たわった後、五人は苛ついた様子で立ち上がる。
「……このクソジジイ、調子に乗ってんじゃねえぞ。俺たちの過ごし方にケチつけるな。金払ってるんだから、自由にしていいに決まってんだろ」
「老いぼれのくせに若者に注意すんな。お前みたいないつ死ぬかわからない奴に、何言われても苛つくだけだ」
「その身体に教えてやるよ。出過ぎたことをしたってな。骨折れても知らねえぞ」
若者グループは俺を取り囲む。
おっ、この流れはもしかして……?
「死ね、クソジジイ!」
「《防壁》! からの、正当防衛いいいいいいいい!」
「「ぐあああああっ!」」
攻撃を防御。
即座に、魔力で身体を強化して力の限り殴りつけた。
若者は地面に転がり落ちる。
あああ~、気持ちいい~。
前世ではムカついても人間を殴ることなんて絶対にできなかった。
でも、この世界ならできる!
それがなによりも快感だった。
若者達は血相を変えると、懐からナイフを取り出した。
治安悪くてワロタ。
「「このジジイ! ぶっ殺してやる!」」
「ジグ様、私も加勢いたします! 乗客の皆さんは避難を……!」
コレットも参戦し。狭い車内で乱闘が始まる。
乗客はわあわあと車両の端に逃げる。
俺は若者の攻撃を躱しながら、冷静に魔力を漲らせた。
「《身体強化》」
目と四肢の能力を向上させる。
通常、魔法使いは格闘戦が苦手だし、俺は老人だ。
だが、目に魔力を集めることで動体視力を増幅し、腕と足の筋力をパワーアップ。
おかげで、若者の俊敏な動きにもついていくことができた。
右フックを躱し、老害アッパーカットをかます。
戦いながらコレットの様子を見ると、初めて会ったときより何段階も俊敏な動きで若者を翻弄していた。
(以前はこんなに動けはしなかった! ジグ様の修行の成果が出ている! ジグ様といるおかげで、私は強くなれている!)
なんか結構爽やかな笑顔なんだが大丈夫だろうか。
意外にも、戦闘狂タイプの可能性がありそうだな。
これは貴重な情報なり。
心の中にメモ。
若者グループとの戦闘は終始有利に進み、数分後には俺とコレットの勝利で終わった。
車内の混乱はいつの間にか収束しており、今や拍手で満たされている。
乗客が興奮する一方で、若者グループは罰が悪そうに俯くばかり。
ククッ、いい気味だ。
「……さて、こんなもんかの。まったく、手間をかけさせる若者どもじゃ。イキるくせに大して強くないのも、情けないことこの上なしじゃよ」
「お疲れ様でした、ジグ様。相変わらず、見事な立ち回りでございます」
魔物召喚士や湖賊のように殺してやってもよかったが、ここは仮にも魔導列車の中。
下手に騒がれてトラブルになっても面白くない。
今、一番重要なのは無事に交易都市ブライトミアに到着することだ。
ククッ、老人になるとずる賢くなって悪いなぁ。
これぞ老獪な戦略。
いつの間にか魔導列車は別の停車駅に着いていたようで、数人の駅員が入ってきては惨状に驚く。
「いったい何があった! 暴動か!?」
「私がご説明いたします。まず、こちらの若者グループが不当に座席を占領しており……」
コレットが理路整然と説明してくれる。
いいぞいいぞ。
乗客の証言などもあり、若者グループの横暴は駅員も知ることとなった。
「さあ、お前たち、事務所に来てもらおうか。迷惑行為を働く乗客はお断りだ」
「「ちくしょう! 覚えてろ、クソジジイ!」」
若者グループは荷物を掴むと、窓から勢いよく逃げ出した。
「ほれ、忘れ物じゃぞ~」
「「ぐああああっ!」」
逃げた若者グループに、浮遊魔法で置いていったゴミをぶつける。
すぐに駅員が確保し、さらに車内での一件を共有する。
若者グループはゴミ捨てを命じられ、迷惑料の支払いを請求されていた。
ククッ、いい気味だ。
まぁ、自分たちがゴミにならなくてよかったな。
満足していたら、乗客に囲まれた。
「お爺さん、とてもお強いですね! 不埒な若者に臆せず注意するなんてカッコいいです!」
「悪い奴には下手に手加減せず、正義の鉄拳を下すのが見ててスカッとしたぜ! 俺たちの代わりに殴ってくれてありがとよ!」
「人生の先輩、バンザイ!」
好き勝手騒がれる中、妊婦とその夫と思われる男が近寄ってきた。
「お爺さんのおかげで身重の妻が座ることができました。情けないことに、彼らに殴られると思うと強く言えなかったのです」
「お爺さんはお腹の子どもも救ってくれたようなものですわ。本当にありがとうございます。私もお爺さんのような、悪いことは悪いと言える強い母親になります」
二人は頭を下げてはしきりに感謝する。
ほーん。
「「ぜひ、お名前をお教えいただけませんか?」」
と、夫婦が言ったら、コレットが得意げな様子で俺の前に出た。
ククッ、俺がどんな人間か知らしめてやれ。
「こちらは"正義の賢老"、ジグルド様です。この世から悪を消し去るため、正義の鉄槌を下す日々を送っていらっしゃいます」
「「"正義の賢老"! なんて素晴らしいお方なんだ!」」
こらっ、コレット。
だから、その呼び名はやめなさいと何度も言っているでしょうが。
もう何度目かわからない注意をしていると、駅員が俺に話す。
「お手数をおかけして申し訳ありません。魔導列車の運行には人手が必要なため、車内の警備まではどうしても手が回らないことが多いのです。ぜひ、お礼をさせてくださいませんか
?」
「ふむ、お礼か……。それなら、魔導パンをいただこうかの。もちろん、成果に見合う量をな」
魔導列車でしか買えないドライフルーツのパンで、魔石を砕いた特製パウダーが不思議な風味……という設定だったはず。
ククッ、どんな味がするのか普通に楽しみだし、飯代を節約してやる。
(これほどの成果に対して、たかがパンをご所望とは……。なんてお優しいご老人だ……)
(ジグ様の器の広さを感じる……)
駅員もコレットも涙ぐんでいるから、老害ムーブも成功したようだ。
おまけで月虹ワインと月虹ジュース(月虹葡萄というレアな品種で造った飲み物)を貰い、乗客たちに拍手されながら個室に戻り、念願の魔導パンを食う。
ブルーベリーと思われる酸味と柑橘系の爽やかさが口に広がる。
魔石パウダーは甘塩っぱい味わいで、日本人に馴染みがあってうまかった。
「パンもジュースもおいしいですね~。街で食べる物ももちろんおいしいですが、綺麗な景色と合わせてすごく身体に沁み渡ります」
「ああ、悪くないの」
魔導パンを食い、月虹ワインを飲んでいるうちに、俺たちはとうとう交易都市ブライトミアに着いた。
ここで絶対に、"若返りの泉"の情報を見つけてやるぞ。
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