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第1話:悪役ジジイ、腹いせにリア充を殺したはずが、狼少女の奴隷を助ける

 高齢化率60%という、恐ろしい世の中になった日本。

 つまりだな、単純計算で全人口およそ1億人のうち、6000万人が高齢者ということだ(ひょえ~)。

 道を歩けばぶつかりジジイされ、高速を走れば逆走車に恐怖し、常に老人の機嫌を窺う毎日。

 昔からずっと高齢者ばかり優遇する政策のせいで、医療費も社会保険料も嵩む一方。

 もちろん、財源は俺たち若者や現役世代から搾り取った税金。

 退職金と通勤手当までが課税されるようになって、もうずいぶんと経つ。


 減税の気配はまるでなし。

 何でも、”財源が足りない”らしい。

 こんなに増税しまくって"足りない"ってどういうことだ(俺の税金はいったい何に使ってるんだよ)。

 まずは議員が一般国民と同じくらいの税金をちゃんと払ったり、無駄なバラマキをなくしたり、"支出"の方を削ってくれ。

 支出に無駄はないという認識の話ではなく、きちんとした報告書を明示する。

 使ったお金は一円単位で領収書をまとめ、全ての一般国民によく見える形で完全公表する(黒塗りとか意味不明な加工すんなよ。そんなの公表じゃねえじゃん)。

 財源がないと言えるのはそれからだ。


 そんな世の中になると、若者の仕事は限られてくる。

 今年で二十四の俺も、介護士として毎日必死に働いていた。

 だが、「これだから最近の若いもんはなっとらん! ワシの若い頃に比べれば……!」などと怒鳴られるカスハラの日々だ。

 サービス残業と税金で痛めつけられ、心も身体も限界が近い。

 昨日だって、書類上の定時は18時だが帰宅できたのは26時だ。


 俺の唯一の楽しみは、数少ない若者に大人気のRPG『蒼影のグラシエル』をプレイすること。

 日本向けのゲームではあるものの、開発元は外国なのが国力の衰退をひしひしと感じて寂しくなる。

 それでも、毎日の楽しみをくれる開発者や運営の方々には頭が上がらない。 

 コンテンツは毎週のように日々更新されるし、本当に飽きが来なくていつまでも楽しめるんだ。

 もう何百時間やり込んだかわからないほどだった。

 さて、書類上今日は一日休みだが、クソ老害上司(73)に命じられ、午後には無給出勤しなければならない。

 数少ない時間を有効活用するために、食事をしながらゲームを楽しもうと思う。

 そう思ってパソコンの電源をつけるわけだが……件のクソ老害上司から電話がかかってきたとさ。


〔……おい! 今どこにいるんだよ!〕

「自宅でございますが……」

〔はぁ、自宅だと!? ……また、こいつふざけたこと言ってるよ。お前、今日は朝から仕事だろ! サボってんじゃねえ、馬鹿野郎! これだから最近の若いもんはクソだな! お前の一週間は月月月月月月月だろ! 若いんだから二十四時間働けよ!〕

「……」


 本来なら、今日は一日休みなんですがね……。

 押し問答しても体力の無駄なので、「はい、すみません」とだけ答え電話を切る。

 仕事に行かねば……と立ち上がった瞬間、ふらっと眩暈がした。


「あ、れ……」


 急激に全身の力が抜けて、床に倒れてしまう。

 頭を激しくぶつけたのに、なぜか痛みを感じない。

 全身の血が冷たくなる感覚があって、意識が掠れていく。

 ……そうか……俺は死ぬのか。

 生まれて初めての経験なのに、不思議とよくわかった。

 最後の最後まで老害されるとは……我ながら悲しい人生だ。

 


 意識は徐々に薄くなり、俺は死んでしまった。



 □□□



 死んだと思ったが、不意に夢から覚めるような感覚があって、急速に意識が戻ってきた。

 たぶん、天国か地獄に行くんだろう。

 死後の世界って本当にあったんだな。

 どちらにしろ、できれば老人があまりいない世界だとありがたい。

 そう思いながら目を開けると、見知らぬ建物の前に立っていた。

 石造りの堅牢な建物で、金属製の重そうな門が開いている。

 そして、俺の前には武装した兄ちゃんが二人。

 若者だ!

 まるで、中世ヨーロッパの衛兵みたいな格好をしているな。

 どちらも表情は険しくて怖いのだが、きちんとした身なりのためかならず者みたいな雰囲気はない。

 むしろ、国の正式な部隊という印象だ。

 ……ん? よく見ると後ろの建物もただの家じゃなく、要塞みたいな雰囲気。

 人も建物もどっかで見たことあるような気がするのはなんでだろうな。

 それにしても、何というかこう……刑務所から出所したばかり感半端ないのだが。


「……ほら、もう二度と来るんじゃねえぞ。お前も自分がどれだけ悪いことをしたか十分反省しただろ。これからは世のため人のため、真っ当に生きろよ。それが勇者だったクラウス様のご希望でもある」

「?」

「本当なら罪を犯さないのが一番なんだからな。お前はクズ人間から真人間になれただけだ。それがわかったのなら荷物を受け取れ」

「??」


 兄ちゃんズは当然のように、ドラム型の肩掛け鞄を俺に渡す。

 俺の私物らしい。

 あまりにも事がスムーズに運んでいる中で、ようやく尋ねることができた。


「えっと……。今、どういう状況じゃ? というか、あんたらはなんじゃ? そもそも、ここはいったいどこなんじゃ?」

「……おいおい、50年のムショ生活で本当にボケちまったか? 50年前、お前のせいでこの国――ガルシア王国は破滅寸前になったんじゃねえか。既のところで勇者のクラウス様が止めてくれて、お前は監獄行きだ」

「念のために教えてやるが、お前はあの悪名高き下劣貴族ジグルド・ルブランだからな。罪を償ったからと言って、また昔みたいな悪事を考えるなよ」

「……へぁ?」

「だから、とぼけるなって。厳しく対応した俺たちへの当てつけか? 言っておくが、俺たちは仕事をしただけだ。恨むんなら過去の自分を恨めよ。じゃあ、もう行くからな。さっさと遠くに消えてくれや」


 兄ちゃんズは呆れた様子でため息を吐くと、建物の中に戻る。

 門がガシャンッと重い音を立てて閉まり、俺は一人取り残された。

 不気味なほど静かな周囲に対して、自分の心臓はうるさいくらいに拍動している。


 ジグルド・ルブラン……。


 俺はその名前に聞き覚えがある。

 前世で唯一の生き甲斐だった、「蒼影のグラシエル」に出てくる悪……役……貴……族……の、名、前。

 クラウスは勇、者、の、名、前……。


 そんなはずは……そんなはずは……!

 ちょっと待て……そういえば俺、さっき語尾に"じゃ"をつけていた……。

 

「《鏡》!」


 大慌てで身体に染みついた魔法を使い、姿見を出す。

 もしかして、俺……。


「ジジイになってる~!?」


 ひょええ~、と一人で悲鳴を上げる。

 白い長髪ぅ、白い口ひげぇ、肌は皺だらけぇ。

 鏡に映ったのは紛れもない爺さんで、若きジグルドの面影がほんのりと見える。

 これはもうジグルドに転生してしまったと言って間違いない。


「なんでこうなった、なんでこうなった、なんでこうなった!?」


 うわあああああ!と頭を抱える。 

 というか、"たった今“、前世の記憶を思い出した。


「なんで今なんじゃあああああ!」


 鞄をスパァーン!と地面に投げ捨てる。

 50年遅いわ!

 こういうのは赤ちゃんか少年期に前世の記憶を取り戻し、破滅フラグを回避するために努力するのが定番だろうが!

 なにしっかり断罪されてんだよ!

 さらにジグルドは牢獄の中でクラウスに復讐するため、ずっと魔力を磨いてきたらしい。


「ちょっとは反省しろよ、ジグルド……」


 おかげで魔力の衰えはまったく感じないけどさ。

 思い返せば、俺が収監されていたのはアークホール刑務所だった。

 どうりで既視感があったよ。

 ゲームで何度も見たわ。

 当時は「ジグルドざまぁ~w」なんて思っていたが、まさか自分が本人になるとは信じられん。

 血の涙は止まらないが、突っ立っていてもしょうがない。

 鞄を拾って今後の人生を考えながら、刑務所前に広がる森を進む。 

 だが、いきなり激ムズの問題にぶち当たった。


「ワシ……これからどうしよ……。68歳の老いぼれじゃん……」


 そうだよ。

 いくら前向きに考えても、ジジイはジジイ。

 口調にも老人が染み込んでしまった。

 後は寿命が来るのを待つだけかよ……と思っていたが、不意に重要なゲーム知識を思い出した。

『蒼影のグラシエル』世界には、どこかに"若返りの泉"があるのだ。


「……泉の水を浴びれば、若返ることができる! そうだ、これだ! 若い身体に生まれ変わって、本当の意味で人生をやり直す!」


 怪我や病気を治す回復魔法やポーションはあっても、若返りの魔法や薬はない。

 もちろん、この50年で外の魔法が発展している可能性があるので、そのような魔法や薬を探しつつ泉を見つけ出す。

 それが一番現実的で確実な方法だろう。

 そうと決まったら、さっそく"若返りの泉"を探そう。

 ワクワクと計画を考えていたら、前から歩いてくる人が突然ぶつかってきた。


「……痛ってな! おい、ジジイ! なにぶつかってきてんだよ!」

「お前のせいで骨が折れたじゃねえか! 慰謝料払えよ、ジジイ!」


 先ほどの衛兵とは全く違う、いかにもならず者といった風体の男が二人。

 しかも、二人の後ろにはフードを被った可愛い少女がいる。

 マジか……出所して早々、リア充に恐喝されたんだが……?

 ぶつかってきたのはそっちだろ、とは思ったが、こういう輩は刺激しないに限る。


「すまんの、気づかなくて悪かった。年を取ると視野が狭くなってしまうんじゃよ。見逃してくれるとありがたいのじゃが……」

「うるせえ! お前がぶつかってきたんだろ! 有り金全部出して土下座しろ!」

「調子乗んなよ、ジジイ! 今すぐ慰謝料払え! ……そうだなぁ、俺の靴でも舐めたら考えてやってもいいぜ?」


 謝るも、ならず者二人は俺を見下しては怒鳴ってきた。

 このゲームは日本向けということもあり、所々日本的な文化が垣間見えるんだよな。

 土下座とかもろそうだし。

 心の中でため息を吐きながら、なおも謝罪を続ける。


「まぁ、そこを何とか許してくれんかの。ワシはもう68歳で……」

「だーかーらー! 金出せって言ってんだよ! 殺すぞ!」

「お前を殺してから奪ってやろうか、ボケジジイ!」


 ならず者たちは剣を抜き、俺に突きつける。

 おいおい、マジかよ。

 なんて治安の悪さだ。

 やがて、ああだこうだ怒鳴られているうちに、少しずつイライラしてきた。

 少女は止めようともせず、ジッと俯いているだけだし。

 ……チッ、リア充どもが。

 思い返せば、前世はずっと誰かの言いなりで、老人に老害されるばかりの人生だった。

 もっと自分のために生きればよかった。

 そう思うと、"とある思い"が猛烈に湧いてきた。


「老人になったのなら……いっそのこと老害ムーブしまくってやる……」

「はぁ? もっとはっきり喋れよ、何も聞こえん」

 

 そうだよ。

 老害ムーブしまくって、前世のストレスを解消してから若返ればいい。

 ジグルドの幼少期を覚えている人間なんていないだろうし、スッキリしてから人生をやり直せるじゃん。

 何でも言うことを聞く良い子ちゃんの自分とは、今日でおさらばだ。

 どうせなら徹底的に悪になってやるよ。

 破滅フラグはもう回収しきったんだから、怖いものだって何もない。


「おい、ジジイ! 聞いてんのか! さっさと金を……!」

「《魔弾》」


 片方の男の頭を、高圧縮した魔力の弾で撃ち抜いた。

 頭蓋が弾け、鮮血が辺りに飛び散る。

 ふむ、悪くない。

 前世の記憶が戻っても魔法は今まで通り使えるな。

 仲間が死んだ様子を見て、生き残りは目が血走った。


「て、てめえ! やりながったな! ぶっ殺して……!」

「《疾風斬》」


 流れるように指先を軽く振るい、風の刃で男の首を切り落とす。

 ゴトンと重い音がして、森に静寂が舞い戻った。

 この王国――ガルシア王国では、盗賊や山賊に襲われたときの正当防衛は認められているし、殺さなきゃ殺される世界だ。

 今は勇者のおかげでだいぶ改善しただろうが、元々『蒼影のグラシエル』には治安が悪い街も多い。


「恨むんなら、ジジイ如きに殺される自分の弱さを恨むんじゃな」


 この世界は弱肉強力。

 弱さは悪、強さは正義だ。

 さて、俺は一文無しに等しいし、金目の物でも回収するか。

 死体を蹴り転がして、背中の武装やポーションを確認していたら、、金貨が幾ばくか出てきた。

 二人合わせて、約7万ゼーニ(約7万円)。

 粗暴な見た目に反して、意外と金を持っていたな。

 死体を火魔法で燃やしたところで、ならず者と一緒にいた少女に気づいた。

 静かすぎて存在を忘れていたぞ。

 意図せず目と目が合うが、少女は険しい顔で俺を見る。


「……(もしかして、私を助けてくれた? ……いや、きっと違う! この人も私の一族を狙いにきたはず! 凄まじい魔力の質の高さと魔法の練度だった。正面から戦っても勝ち目はない。くっ、どうすれば……まずは逃げないと。でも、威圧感で身体が動かない……!)」」


 まぁ、目の前で彼氏二人を殺したからな。

 復讐しようとか考えているかもしれん。

 もしそうなら、正当防衛としてこの男たちと同じ目に……いや、奴隷にしよう! それがいい!

 "若返りの泉"を探すまでの労働力にして、こき使おう! これこそ老害!

 俺が前世で受けまくった嫌な思いを発散するぞ!


「おい、小娘……」

「……あっ(しまった、脚が……!)」


 近づいた瞬間、少女はバランスを崩して転んだ。

 失礼な、そんなに驚かなくてもいいだろうがよ。

 近づいて初めてわかったが、脚になんか重そうな枷がついている。

 しかも、よく見ると魔力封じの高度な魔法陣が刻まれていた。

 これじゃ碌に動けないわ。

 彼氏の趣味か?

 ……チッ、面倒だな。

 このまま奴隷にしても役に立たねえじゃねえか。

 荷物持たせても動きが悪いだろうし、逆におんぶして運ぶとか絶対に嫌だぞ。

 というわけで、仕方ないので壊してやることにした。


「動くなよ。《破断破》」

「な、なにを……! ……え? たった、一撃でこの魔法枷を破壊できるのですか!?(私はじゃ絶対に壊せなかったのに!)」

「ああ? 文句あんのか?」

「いえ、滅相もございません!(助けてくれたってことは、本当に良い人だったのね!)」


 枷は外部からの魔法を弾く防御魔法陣がかけられていたし、鋼鉄製で物理的な強度も高かった。

 だが、俺は50年間も魔力を磨き続けてきたからな、これくらいは楽勝だ。

 さーって、お楽しみの老害ムーブしますか~。


「ククッ…いいか、小娘。死にたくなければ、ワシのど……」


 突然、少女は正座したかと思うと、地面に頭を擦りつけた。

 ……いったいどうした? 命乞いか?

 ククッ、いくら頭を下げようと無駄だ。

 お前の人生は俺の奴れ……。


「助けていただきありがとうございました」

「……は?」

「私はこの人たちに奴隷として捕まっていたんです」

「ど、れい……?」

「先ほどの枷も、逃げられないよう装着された物です。お爺様に出会えなかったら、一生奴隷だったと思います。本当にありがとうございました」

「なん……じゃと?」


 彼氏じゃなくて奴隷商人んんん?

 たしかに、今気づいたが、男たちの腕や肩には奴隷商人として裁かれたときに刻まれる特徴的な紋様が浮かんでいた。

 ゲームの記憶と重なる……。

 奴隷商人ならば、粗野な見た目に反してやけに金を持っていたのも納得だ。

 少女はピシッとした体勢のまま、感謝の言葉を述べ続ける。


「奴隷商人を殺してくれてありがとうございます。私の代わりにやり返してくださったみたいで、ものすごくスッキリしました」

「お、おお……」

「あなた様はまさしく、"正義の賢老"でございます」

「と、とりあえず静かにするんじゃ」


 待て、変な呼び名をつけないでくれ。

 

「私はコレットと申します。命の恩人たる、お爺様のお名前もお伺いしてもよろしいでしょうか」 

「……ジグルドだ」

「それでは、ジグ様とお呼びさせていただきます(なんて素敵なお名前! お名前を聞いただけで昇天してしまいそう……もう……ダメ……)」


 こいつ、元々奴隷だったのかよ。

 放っときゃいいのに助けちまった。

 ……ああ、ちくしょう、なんかもう完全にタイミング逃した。

 本人はどことなく視線が危ういし、あまり深入りしない方がいいかもしれん。

 労働力と老害サンドバッグは惜しいが、泉の情報だけ集めて立ち去るか。


「おい、コレット。"若返りの泉"って知っとるか?」

「え? ……は、はい、名前くらいは聞いたことがありますが、どこにあるかはわかりません(私の名前を呼んでくれた!? 奴隷商人は番号で呼ぶだけだったのに!)」

「そうか」


 チッ、使えんヤツめ。

 こいつがちょっと危なそうな女じゃなければ、激しい叱責でもかましていたところだ。


「あの……"若返りの泉"に関する情報が欲しいのなら、ブライトミアに行かれてはいかがでしょうか(知らないと言っても怒らないなんて、やっぱりお優しい方なのね……)」

「ほぅ、それは良い案じゃな」

「ありがとうございます(褒められちゃった!? よくやった、私! ジグ様の好感ポイント爆上がり!)」


 交易都市ブライトミア。

 王国でも随一に栄えた大きな街で、東西南北色んな場所から人や物、情報が集まる。

 "若返りの泉"に関する情報も入手できるだろう。

 そうと決まったら、さっそく向かうか。


「じゃあな」


 コレットは謎にガッツポーズしまくっているし、予想通り危ない女らしい。

 前世で鍛えた俺の“ヤバいやつセンサー”が鳴りまくっているし、こういう人間には深く関わらない方がいい。 

 そう思って歩き出したら、凜とした顔で追いかけてきた。


「お待ちください、ジグ様(せっかく、こんな素敵な紳士に出会えたのに! もう離れちゃうなんて嫌! 置いていかないでください!)」

「なんじゃ?」


 金なら渡さんぞ。

 これは税金でも奪えない俺の金だ。


「私も……連れて行ってくださいませんか?」

「はぁ? これ以上若返ってどうするんじゃ。お前、まだ全然若いじゃろ」


 意外にもロリババアなのか?

 その場合、老害対象から外した方がいいのだろうか。


「仰るとおり、私はまだ十六歳です。ご一緒したい理由は別にございます。私は奴隷狩りに遭って、バラバラになった一族を……そして、両親と妹を見つけ出したいのです」

「一族とな?」

「はい、私は……狼人族なんです」


 フードを外すと、コレットの全容が明らかになった。

 銀色の長い髪が風に揺れ、頭の上には三角の尖った耳が生える。

 言われてみれば、美しい赤色の目からも狼っぽさを感じる。

 

 ――狼人族。


『蒼影のグラシエル』では多種多様な亜人が出てくるが、その中でも上位の存在だ。

 ガルシア王国の東端に一族で住んでおり、ゲームのメイン時代(要するに、50年前)では、主人公に力を貸す重要な立ち位置だった。

 老人と狼人……呼び方が同じなのは、何か意味があるんじゃないかと勘ぐってしまうな。

 身体能力が高く、奴隷狩り如き倒せる戦闘力があったとは思うが、なぜ捕まったのかは不明だ。

 コレットは固く拳を握り締める。


「数年ほど前から亜人の奴隷狩りが再興し始めて、狼人族も標的にされました。敵は亜人の魔力を縛り付ける特殊な魔法を開発しており、みな捕まってしまったのです。私は一族と両親、そして妹を見つけるためなら何でもする覚悟です。最愛の家族がどんな目に遭っているのかを思うと……胸が張り裂けそうなんです」


 ほーん、大変じゃん。

 たが……ぶっちゃけ、俺には関係ないんだよなぁ。

 狼人族の知り合いなんていねえし、そもそも50年も収監されてちゃ外の世界の事情にも疎すぎる。


「お願いします、ジグ様のような素晴らしく強い魔法使いは他にいません。ジグ様がいれば、一族を見つけ出せるはずです。決してご迷惑はおかけしませんので、何卒私も連れて行ってくださいませ」


 コレットは火が点きそうなくらいの激しい勢いで、地面に頭を擦りつける。

 そんなに頼み込まれてもなぁ…………いや、待て、こいつはこの先便利になりそうだ。

 奴隷だが各地を旅してたっぽいし、俺より世界の事情に詳しいだろう。

 それに、貴重な狼人族なら色々と使い道があるんじゃね?(まだ何も思い浮かばねえけど)

 ククッ、利用するだけうまく利用してやるか。


「いいだろう、同行を許可する。ワシについてこい。ワシの隣がお前の居場所じゃ」

「ジグ様……ありがとうございます!(ジグ様の隣が私の居場所……。恩人のすぐ横にいられるなんて幸せだ。一族や両親も探せるし、願ったり叶ったりね)」


 コレットは騎士のように跪き、首を垂れる。


「では、さっそく私に仕事を命じてくださいませ。お望みとあらば、どのような仕事でもこなしてみせます」

「ふむ、仕事か……別に今はないな」


 奴隷商人から奪った荷物でも持たせようと思ったが、盗られると嫌だから収納魔法で仕舞っといた。

 これは税金でも奪えない俺の金だ。

 ついでに、自分の鞄も収納する。

 寝ている間にでもこっそりと持ち出されたらたまらん。


「仕事はまだないが、旅しているうちに色々と頼むことになるじゃろう。ククッ、今のうちに覚悟しておくんじゃな」


 奴隷商人より酷くこき使ってやるわ。


「はい、承知しました(一緒に旅するのに、荷物を持たなくていいなんて! きっと、私を疲れさせないために仕舞ってくれたのね! こんなにお優しくて正義感に溢れたお爺様に出会えるなんて、私は本当に幸運だわ! ジグ様……いや、ジグしゃまと呼ぶことにしよう。ジグしゃま、ジグしゃま~!)」

「……なんか言ったか?」

「いえ、何も申しておりません(ジグしゃまが大好きと思ってます! ご心配なく、思ってるだけですから! ジグしゃま、ずっと一緒にいましょうね! ジグしゃま!)」


 コレットは礼儀正しくて静かなのに、うるさく感じるのは何でだろうな……不思議なヤツだ。

 おまけに、ポロリと涙を零している。

 どうした? 老害に苦しめられる自分の未来に恐れ慄いたか?


(ジグ様に会えなかった世界線の私は、きっと奴隷で人生を終えていた。両親や妹にも似度と会えなかった。でも、ジグ様に会えて希望が生まれた。助けてくださって……本当にありがとうございます)


 まぁいいや、何はともあれ旅の道連れができたらしい。

 俺たちは森を抜け、まずは近くの街へと向かう。

お忙しい中読んでいただき本当にありがとうございます


【読者の皆様へ、青空あかなからのお願いでございます】


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