第99話「あなたに会えて、幸せです」
律が生まれてから2年。
結衣と涼也のもとに、新しい命がやってきた。
兄となる律のまなざしに、家族の絆の深まりがにじみ出す。
春の風がやわらかく吹き抜ける病室。
結衣は、腕の中で眠る小さな赤ちゃんをそっと見つめていた。
「こんにちは、私たちの赤ちゃん……会いたかったよ」
涼也は結衣の隣に座り、赤ちゃんのほっぺにそっと指を伸ばす。
「……女の子だって、分かってたけど、実際にこうして会えると、ほんとに不思議な感じだね」
「うん……りっくんのときとまた違う気持ち。なんだろう……この子には、この子の物語が始まったんだって思うと、胸がいっぱいになる」
そんな二人のやりとりを見守るように、病室のドアが開いた。
「ママー!」
駆け寄ってきたのは、2歳になった律。
涼也が抱き上げると、律は興味津々で赤ちゃんを覗き込んだ。
「これ……ちいさい」
「うん。りっくんの妹だよ。かわいいね」
律は少し不思議そうに赤ちゃんを見つめた後、自分のほっぺをつんと触った。
「ぼくも ちいさかった?」
「そうだよ。パパとママにとって、大切な宝物だったんだよ。今もね」
結衣が微笑みながら言うと、律は照れたように笑った。
「じゃあ、ぼくがまもる!」
涼也と結衣は顔を見合わせ、笑みを交わした。
「頼もしいお兄ちゃんだね」
「うん。きっと優しいお兄ちゃんになってくれる」
その夜、家族四人となった新しい日々の始まりに、病室の窓から やさしい月明かりが差し込んでいた。
赤ちゃんの寝息、小さな手。
律の笑顔、涼也の温もり。
その全てが、結衣にとってかけがえのない「今」だった。
「あなたに会えて、幸せです」
結衣の心の声は、まだ名前もない小さな命にそっと届いていた。
静かな病室で、涼也がそっと尋ねた。
「……ねぇ、名前、どうしようか」
結衣は、赤ちゃんの寝顔を見つめたまま、ふわりと笑った。
「実はね、決めてたの。麻衣って……呼びたいなって。涼ちゃんがよければだけど」
「いいに決まってる。素敵な名前だな! 麻衣……」
涼也は、その名前を繰り返し、微笑んだ。
小さな命に込められた、新たな願い。
こうして、『麻衣』という名前が、この子に贈られた。
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