第91話「結婚の決意」
今隣にいるこの人と、これから先も一緒にいたい。
その気持ちは、もうずっと前から変わらなかった。
でも“家族”になるということは、二人の問題だけではなくて――
今回は、結婚に向けて一歩踏み出す大悟と里奈の姿を描きます。
日曜日の昼下がり。
駅前のベンチに、里奈と大悟は並んで座っていた。
手には、それぞれ紙カップのコーヒー。
「……ねえ、大ちゃん」
「ん?」
「ちゃんと話そうと思う。うちの親に、私たちのこと」
大悟は少し目を細め、静かに頷いた。
「そうか」
「前に言ったよね? 同棲のこと、まだ言えてないって」
「うん。覚えてる。カフェで涼也たちと話したときだろ?」
そのときのことを思い出して、里奈は小さく笑った。
結衣が「それいいね!」と笑ってくれたのが、妙に心強かった。
「ほんとはね、ずっと言おう言おうと思ってたんだよ。
でも、“順番が違う”って怒られるんじゃないかって……」
「それでも、ちゃんと話すって決めたんだな?」
「うん。……だって、私、大ちゃんと結婚したいもん」
大悟は少しだけ驚いた顔をして、それから静かに笑った。
その笑みには、迷いのない決意が滲んでいた。
「じゃあ、行こう。俺も一緒に話すよ。文句言われたら、全部俺のせいってことで」
「……ほんとに言うつもり?」
「言うに決まってる。だって、それで里奈がちょっとでも楽になるなら、それでいい」
里奈の目が少し潤んだ。
「……ありがとう。私、頑張る」
大悟は、そっと里奈の手を握った。
「俺も。結婚しよう、里奈」
言葉にされたその想いは、決して軽くない。
むしろ重いからこそ、ちゃんと向き合いたい。
その夜、里奈は久しぶりに実家へ電話をかけた。
「ちょっと話したいことがあるんだけど……今度、時間くれる?」
少しの間の後、母の声が返ってきた。
「いいわよ。あんたがそう言うなら、ちゃんと聞くから」
電話を切った後、里奈は胸に手を当てて、ふうっと深く息を吐いた。
横で見守っていた大悟が小さく言った。
「大丈夫。何があっても、俺がいるから」
里奈は、こくりと頷く。
少しずつ、だけど確かに前に進んでいく二人の歩み。
それは、恋人から“家族”へと変わっていくための、大切な一歩だった。
カフェで交わした何気ない会話――
「順番が違うかも」そんな迷いも、「それいいね!」の一言も。
第68話で生まれたやりとりが、今回の“結婚の決意”へと静かに繋がっています。
あの頃の言葉たちを思い出しながら、繋がりを感じていただけたら嬉しいです。
お忙しい中、今日も最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました!