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再生回数7回のラブストーリー  作者: 市善 彩華
第15章 ブルーデージー ── 協力、支え合い
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第90話「初めての育児教室」

妊娠検査薬の結果を受けて、二人で訪れた病院。

少しずつ現実味を帯びていく新しい命の気配に、戸惑いと喜びが入り混じります。

今回は、初めての育児教室に参加し、赤ちゃんとの未来を思い描き始める、そんなやさしい一日のお話です。

翌週、結衣と涼ちゃんは並んで病院の待合室に座っていた。

カレンダーには、まだ春の名残があるというのに、結衣の手のひらには ほんのり汗がにじんでいる。

緊張と、そして ちょっぴりの不安。


――ここから、本当に“お母さん”になるんだ。


涼也は…と言えば、いつものように優しく隣にいてくれるけど、普段より口数が少ない。

けれど時折ちらっと結衣を見ては、安心させるように笑ってくれる。


名前を呼ばれて診察室へ。

医師の声が、全てをやさしく確かに告げてくれた。


「はい、妊娠されていますね。おめでとうございます。順調に育っていますよ」


その瞬間、結衣の胸の奥にじんわりと温かいものが広がった。

涼ちゃんがそっと手を握ってくれる。


「……本当に、いるんだね」


「うん……ほんとに。ありがとう、涼ちゃん」


その後、助産師さんが二人に育児教室の案内をしてくれた。


「今日から数回に分けて、赤ちゃんのお世話や体の変化、育児について一緒に学んでいきましょうね。お父さんの参加も大歓迎ですよ」


「……お父さん、かぁ」

涼也がぽつりとつぶやく。

少し照れくさそうに笑いながらも、その声には、どこか実感がにじんでいた。


涼也は、すぐに「もちろん、全部出ます」と即答してくれた。


初めての教室は、まず沐浴の実演からだった。


赤ちゃん人形を使って、助産師さんが丁寧にお風呂の入れ方を説明していく。


「首をしっかり支えて、そっとお湯へ――怖がらず、声をかけてあげてくださいね」


涼也は真剣なまなざしで見つめながら、自分の順番が回ってくると、ちょっとおっかなびっくり手を伸ばした。


「よ、よし……こうかな……?」


動きは ぎこちないけれど、その姿勢は とてもまっすぐで、結衣は思わず笑ってしまう。


「涼ちゃん、すごいよ、優しくできてる」


「いや、全然だよ……でも、なんか緊張するなあ。こんなちっちゃい命、ちゃんと守れるかなって」


「一緒にやれば大丈夫。ね?」


「……うん」


次は離乳食についての講義だった。

月齢ごとのステップ、使える食材、避けた方がいいもの、アレルギーの話まで――

知らないことがたくさんあって、結衣は必死にメモを取った。


涼也も自分のノートに小さな文字で何かを書いていた。


「こんなに準備がいるんだなあ」


「ね。でも……なんだか、楽しみになってきた」


教室が終わる頃には、二人の顔に緊張は もうなかった。


外に出ると、まだ陽が少し高くて、風が気持ちよく頬をなでた。

結衣は涼ちゃんの手をそっと握る。


「これから、いろんなことあるけど……がんばろうね」


「うん。ずっと一緒にやっていこう」


未来の輪郭は、まだぼんやりとしたまま。

だけどその日、小さな一歩を確かに踏み出した二人には――

それだけで十分な希望が、ちゃんと見えていた。

お忙しい中、今日も最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました!

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