第84話「初対面の温もり、これからの繋がり」
翔平夫妻が涼也の家を訪れ、結衣と初めて顔を合わせる瞬間。
緊張しつつも和やかな交流が広がり、これからの関係に温かな期待が芽生える物語です。
涼也の家の玄関先に、エンジンの音がゆっくりと近づいてきた。
窓の外に目を向けていた結衣が、そっと息をつく。
「そろそろ来るね」
彼女の声には、ほんの少しの緊張がにじんでいた。
「翔平くんたちかな?」
「緊張する? 大丈夫、すごく感じのいい人だから安心していいよ」
涼也が横から声をかけると、結衣は こくんと頷いた。
「うん。なんだか…ちょっと緊張する。ちゃんと好印象持ってもらえるかなって……変に構えちゃう。でも、涼ちゃんが“安心していいよ”って言ってくれたから、少しだけ気が楽になった」
「はは、俺は翔平がいるときに奥さんに何回も会ってるからね。多分、すごく話しやすい人だと思うよ」
その言葉に、結衣は小さく笑った。
玄関のチャイムが鳴り、涼也がゆっくりとドアを開ける。
そこには、笑顔の翔平と、その隣に穏やかな表情の女性が立っていた。
「こんにちは、涼也さん。お久しぶりです。またこうしてお会いできて嬉しいです」
奥さんは涼也に軽く会釈をし、その声は どこか柔らかく安心感を帯びていた。
結衣は、その様子に少しだけ肩の力が抜けるのを感じた。
「久しぶり。元気にしてた?」
涼也もにこやかに返すと、翔平が息子の片手を軽く振ってみせる。
「ほら、ちゃんとお礼言おうな」
「ありがと〜!」
甥っ子は楽しげに声を上げながら、片手をブンブンと振って結衣に向けた。
その様子に場がふっと和み、結衣も自然と笑顔になる。
「初めまして、結衣です。翔平くんのお嫁さん、とても素敵な方ですね」
緊張を隠さないまま、丁寧に頭を下げると、奥さんも柔らかく頷いた。
「初めまして、結衣さん。息子のお世話、本当にありがとうございました。玄関でこんなに はしゃいでるの見て、“また行きたい!”って思ってるんだろうなって、すぐ分かりました」
「うれしいです! また是非来てくださいね。ほんとに、いい子で癒されました」
「それは、よかった。私たちも久しぶりにデートらしいデートができて……コーヒー一杯でも、贅沢に感じました」
奥さんは、ちょっと恥ずかしそうに笑い、翔平もそれに続くように頷いた。
「なんか学生時代に戻ったみたいだったよ。二人ともありがとう」
「お二人のおかげで、とても濃密な時間を過ごせました」と、奥さんも深く頭を下げる。
「こちらこそ、また皆で集まれたら嬉しいです」
結衣が少しだけ前に出て、声をかけると奥さんは、ふと視線を結衣に合わせて微笑んだ。
「今度は、ゆっくりお茶でもしましょう。もっとお話したいです」
「……はい、私も楽しみにしてます」
陽の光がリビングに差し込む中、二人の女性の距離は、ほんの少しだけ近づいていた。
翔平の腕の中で、甥っ子が「ねえ!またあそびにきていい?」と無邪気に尋ねると、涼也と結衣が同時に「もちろん」と笑った。
その笑顔に、翔平も奥さんも自然と笑みを返した。
お忙しい中、今日も最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました!