第8話「私たちだけの“同じこと思いましたw”」
涼也からのリプライに結衣は、どんな反応を示すのか? 少しずつ近づく二人の関係に、新たな変化が訪れる予感。
帰りの電車、揺れる車内でスマホを開いた。
通知を見て、ふわっと胸があたたかくなる。
涼也さんが、私の投稿にリプライをくれた。
たった一言。でも、思わず吹き出してしまった。
「社食で優勝は笑いましたw たしかに、あれは無敵です」
誰にも言ってないのに。
まさか、“優勝”のニュアンスが伝わってるなんて。
すぐに返信した。
「同じこと思いましたw」
送った後、心臓の音が大きくなる。
タイミングもぴったり過ぎて、なんだか——
(私たち、ちょっと似てるのかも……)
少し照れくさくて、でも嬉しくて。
電車の中なのに、頬がゆるんでしまうのを隠せなかった。
⸻
家に帰っても、その一言が頭の中で何度も再生された。
「同じこと思いましたw」
ただのネットの言葉のはずなのに、今はもう特別な響きに変わっている。
ポケカラの歌に惹かれて、
コメントして、
会って、
Xで相互になって……。
きっと、ここまで来られたのは“偶然”だけじゃない。
ベッドに寝転びながら、ふと画面を見つめる。
「彼女……いないのかな」
自然に思った。
気になってしまった。
——あんなに優しくて、人気もあって、
きっとモテるに決まってるのに。
(でも、あの笑い方……誰かと付き合ってたら、あんなふうに笑ってくれるかな)
考え過ぎかもしれない。
だけど、心がそっと期待してる。
いつか、もし聞けたらいい。
涼也さんのこと。
ちゃんと、自分の言葉で。
今はまだ、その手前。
でも、すぐそばにいる気がしてる。
この“同じこと思いましたw”が、私たちの小さな合図みたいに思えて——
画面をスリープにして、胸にそっと手を当てた。
ゆっくり、深呼吸する。
まだ何も始まっていない。
でも、心の中では確かに——
始まりかけている気がした。
お忙しい中、読んでいただきありがとうございました!