第78話「百聞は一見にしかず」
結衣の「百聞は一見にしかず」の一言から始まった、ピンコロ地蔵を訪ねる小さな旅。
ところが予想外の通信障害が発生して、スマホの地図も使えず大混乱……!?
それでも道ゆく人のあたたかさにふれ、心がほどけていく二人。
今回は、便利さから少しだけ離れて見つけた“特別な時間”を描きます。
結衣がにっこり笑いながら言った。
「ねえ、ピンコロ地蔵って実際に行ってみたいな。やっぱり百聞は一見にしかずって言うし!」
涼也も笑顔で頷く。
「そうだな。調べるだけじゃなくて、自分の目で確かめるのが一番だよな」
そう決めた二人は、ある週末にピンコロ地蔵がある町へ出かけた。
ところが、車を降りてスマホを取り出すと……画面が真っ白に。
「え? 電波が全然入らない?」
どうやら その日は、偶然にも大規模な通信障害が起きていたらしい。
「GPSは動いてるけど、肝心の地図データが読み込めない……」
涼也は眉をひそめ、画面を見つめた。
「スマホが使えないなんて、まるで昔にタイムスリップしたみたいだな」
苦笑いを浮かべるその顔には、少しだけ楽しさも混じっていた。
仕方なく、二人は手持ちの小さな地図と、現地の看板、そして 人に道を尋ねながら歩き始めた。
「あの建物の角を曲がったらいいって」と、近所のおばあさんが優しく教えてくれる。
「こっちの細い道を抜けると、睡蓮が浮かぶ静かな池が見られるよ」と通りかかった子どもも笑顔で話しかけた。
迷いながらも、道中の風景や人の温かさに触れ、二人は自然と会話が増えた。
「通信障害のおかげで、いつもと違う時間が過ごせてる気がするね」と結衣が言う。
涼也も「スマホに頼りすぎてたんだなって気づかされたよ」としみじみ。
やがて、二人は小さな祠の前にたどり着いた。
そこには「ピンコロ地蔵」が静かに佇んでいた。
結衣は、そっと手を合わせてから満足そうに言った。
「やっぱり、百聞は一見にしかずだね」
そして、スマホをカメラモードに切り替えてパシャリ。
「ふふ……機内モードでも写真は撮れるからよかった。笑」
ふと、結衣が空を見上げて呟く。
「でも、こういうときに地震とかあったら、きっとすごく大変なんだろうな……連絡も取れないし、帰宅もできないし……」
涼也は少し表情を引き締めた。
「確かに。電波がないって、思った以上に心細いもんな」
「地震とか天災がない日って、本当は それだけで幸せなことなのにね。
わかってるつもりでも、つい忘れちゃって……でも、忘れた頃にくるんだよね、そういうのって」
二人の間に、静かな風が吹き抜ける。
言葉は多くなかったけれど、その時間が心にじんわり染みていくのを、二人とも感じていた。
涼也が優しい目で結衣を見つめ、微笑む。
電波がなくても、繋がっていたのは心と心だった。
お忙しい中、今日も最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました!