第76話「おしどり夫婦になれたら」
日常の中にそっとある、小さな幸せや願いごと。
特別な言葉でなくても、ふとした瞬間に交わされる想いが、二人の絆を深めていく。
今回は、そんな二人の“おしどり夫婦”になりたいという願いと、日々の細やかなやりとりを描きました。
どうか読んでくださる皆さんの心にも、あたたかい灯りがともりますように。
旅行で鳥取を訪れた涼也と結衣。
駅前の広場を歩いていると、大きなアーチが目に入った。
「……わ、見て。“おしどりアーチ”だって」
結衣が嬉しそうに指を差す。
「ほんとだ。これ、二羽の鳥がくっついてアーチになってるんだね」
涼也も足を止め、見上げる。
「“おしどり夫婦”の“おしどり”かな。……なんかいいね」
結衣は静かに微笑んだ。
二人はアーチの下に立ち、スマホで記念写真を撮った。
ちょうどそのとき、上の鐘が優しく鳴り始める。
「……ちょうど鳴ったね。願い事、叶いそう」
結衣がふと空を見上げながらつぶやく。
「どんな願いを?」
涼也が横顔を見つめて尋ねる。
「内緒」
結衣は少し照れたように笑った。
「俺はね、結衣ちゃんと“仲良く、ずっと一緒にいられますように”」
「同じ…隠した意味なかったね」
結衣は照れくさそうに笑った。
すると涼也が、愛おしそうにそっと結衣の頭を撫でた。
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あの日から数日後。宇都宮を旅していた涼也と結衣は、ふと見つけた案内板を頼りに「おしどり塚」へと足を運んだ。
「この前“おしどりアーチ”行って、今度は“おしどり塚”…なんか凄くない?」
涼也が看板を指さして笑った。
「うん。『おしどり塚』って名前も、なんだか“仲良く一緒にいるイメージ”でいいよね」
結衣は穏やかに笑った。
二人は立て札のことは気にせず、ただ“ずっと一緒”を思いながら手をつなぎ、穏やかな気持ちで塚の周りを歩いた。
「ねえ、“おしどり夫婦”って、いいよね。……私たちも、そうなれたらいいな」
結衣がぽつりとつぶやく。
「そうだね」
涼也も静かにその言葉を受け止めた。
結衣は少し照れて笑い、涼也もその笑顔に胸があたたかくなった。
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後日。カフェでの午後。
結衣と里奈が向かい合って座り、おしゃべりに花を咲かせていた。
「この前、“おしどりアーチ”と“おしどり塚”に行ってね。なんか私、“おしどり夫婦になれたらいいな”って言っちゃって……」
結衣がストローをいじりながら話す。
「ちょ、何それ、かわいすぎるでしょ」
里奈が笑いながら身を乗り出す。
「いや、なんか自然と出ちゃって……ちょっと恥ずかしかったんだけど」
結衣は苦笑いを浮かべた。
「いやいや、なに言ってんの。結衣ちゃんたち、もう“おしどり夫婦”でしょ。今さら何目指すのよ」
里奈は笑いながら言った。
「えっ、そう見える?」
「そりゃ見えるよ。雰囲気からしてもう完成してるもん。……いいなあ、そういうの」
結衣は照れながらカップをゆっくり手に取り、口元に近づけた。
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同じ頃。涼也と大悟は仕事帰りに近所の居酒屋で軽く一杯飲んでいた。
「……この前、結衣ちゃんに“おしどり夫婦になれたらいいな”って言われたんすよ」
涼也がグラスを置きながら話す。
「は? なにそれ、今さら?」
大悟が吹き出す。
「いや、なんか……急に言われて、ちょっと意外でした。そんなん意識してたんだ、って」
「意識もなにも、お前ら もう十分“おしどり”だろーが。見りゃ誰だってそう思うって」
「……マジっすか?」
「マジマジ。お前らって、最初から変わんねぇじゃん。安心感あるっていうか、なんかもう“落ち着いてる感”がさ。あれ最強だよ」
「……そう言ってもらえるの、嬉しいっすね。なんか」
「素直でよろしい。自覚しろよ、旦那」
「……そうっすね。これからも見ててください、兄貴」
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「なれたらいいな」って願った日。
そのときには、もう「なっていた」二人。
そんなことに気づいたのは——
何気ない会話の中に、そっと灯っていた。
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それからしばらく経って、ファミレスのテーブルに、結衣・涼也・里奈・大悟の四人が並んで座った。
「この前、涼ちゃんとクイズ番組見てたら、“おしどり夫婦”の意味知ったの(笑)」
結衣が笑いながら話す。
「へぇ、どんな意味?」
里奈が興味津々に聞く。
「本当のオシドリはね、毎年相手を変えることもあるんだって。でも、“ずっと仲良く一緒にいる”イメージで“おしどり夫婦”って言うようになったんだよ」
結衣がにっこり説明する。
「私、結衣ちゃんに“おしどり夫婦”って言っちゃった……」
里奈が申し訳なさそうに言う。
「俺も悪気なく涼也に言ってたわ……すまん」
大悟も笑いながら告白する。
結衣と涼也は、顔を見合わせ微笑みあった。
「いやいや、二人とも良い意味で言ってくれたんでしょ! 俺も結衣ちゃんも喜んでるから!」
「そうそう! 元々の意味は違っても、きっと願いが込められてるんだなと思ったら、そっちの方を信じればいいかなって(笑)」
結衣が満面の笑みで言う。
「そうだね、相手は変えないけどね(笑)」
涼也がそう言うと、四人の笑い声がファミレスのテーブルを包むように、ふんわりと広がった。
お忙しい中、今日も最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました!




