第69話「夏の夜、心に咲いたひとひら」
夏の夜、特別な思い出がまた一つ増えていきます。
二人の『今』が、そっと心に灯るような時間になりますように。
夏の夜風がやさしく吹き抜け、浴衣姿の人たちでにぎわう花火大会の会場。
結衣は淡い紫の浴衣をまとい、髪には小さな花の飾りをつけていた。
「うわあ……屋台、いっぱいあるね」
「食べたいの決まってるでしょ、おうし座さん」
涼也がからかうように笑う。
「バレてる。だって とうもろこしの匂い、すっごくするし」
「ほら、焼きそばも買っておいたよ。並ぶの大変そうだったからさ」
「えっ、いつの間に!? ありがとう、涼ちゃん!」
人波に紛れながら、二人は並んで歩く。
何でもない会話、何気ない仕草。その一つ一つが心をあたためてくれる。
「結衣ちゃん、浴衣似合ってる。……っていうか、かわいすぎる」
「えっ、急に何!?」
「いや、もうちょっとカッコつけようかと思ったけど、無理だった」
「ふふ。涼ちゃんの浴衣姿も、すごく素敵だよ。なんか……大人っぽい」
「ありがと。でも、やっぱり結衣ちゃんが一番だな」
二人は照れ笑いしながら見つめ合う。
そのとき──
結衣の視線が、少し離れた場所に止まる。人混みの中に、里奈と大悟の姿があった。
「あっ……あれ、あの二人じゃない?」
「……ほんとだ。偶然だな」
「ちょっと待ってて」
結衣はスマホをそっと取り出し、二人の後ろ姿を静かに撮影した。
「何撮ってるの?」
「ふふ。ちょっと“お返し”」
「お返し?」
「前に、私たちも後ろ姿撮られてたじゃん」
「──あぁ、大悟さんが撮ってくれたやつか」
涼也が懐かしそうに笑う。
「うん。知らないうちに撮られてたのに、すごく嬉しくて。今でも、あの写真すごく好き」
「ノートに貼ってくれてたやつだよね」
「そう。あのときのぬくもり、今でも ちゃんと残ってる気がするんだ」
涼也は、ゆっくりと頷きながら、ふと目を細めた。
「俺も。……あのノート、ちゃんと持ってるよ。あれ、すっごく嬉しかったんだ」
「えへへ、よかった」
大きな音を立てて、夜空に一つ目の花火が上がる。
色とりどりの光が空に広がり、二人の顔をふわりと照らした。
「ねえ、涼ちゃん」
「ん?」
「これからも、こうやって いっぱい思い出作っていこうね」
「うん。結衣ちゃんと一緒なら、何回でも作れるよ」
二人は見つめ合い、そっと手を繋いだ。
その手のぬくもりは、静かに、でも確かに──心の奥まで伝わっていく。
夏の夜空の下で、また一つ大切な記憶が増えた二人。
今回のエピソードには、第40話「転勤前の宝物」で結衣が贈ったノートの記憶が、そっと息づいています。
あの回との繋がりを感じていただけたら嬉しいです。
お忙しい中、今日も最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました!




