第6話「直接お礼が言いたくて」
結衣は、涼也とついに対面するチャンスが訪れる。二人の関係に、どんな変化が起きるのか…?
「SNSで見たんだけど、この人、今うちの会社とコラボしてるんだよね?」
ランチタイムの休憩室でスマホを覗き込みながら、結衣は隣の席の同僚に声をかけた。
「ああ、広報の子が言ってたかも。なになに、ファン?」
「……うん、ちょっとだけ」
ほんの少しだけ、のつもりだったのに。
気がつけば、毎日のように彼の投稿をチェックするようになっていた。
彼――涼也が作る料理、言葉の選び方、たまに見せる笑いのセンス。
どれも心地よくて、目が離せなくなっていた。
「広報の子に話してあげるよ、会いたいって」
「えっ、いいの!? いや、でも……私なんかが……」
「何それ、全然いいって。会っておいでよ」
その背中を押すような言葉に、結衣は思わず笑ってしまった。
⸻
展示スペースの一角で、結衣は少し緊張しながら待っていた。
試食用に並べられた小さなカップと、整えられたテーブル。
その向こうに立つ男性が、ふとこちらに気づいたように目を上げた。
「こんにちは……。あの、私……少し前にXでコメントさせてもらってて……」
その瞬間、涼也の表情がパッと明るくなった。
「えっ、もしかして、“癒された”って言ってくれた方ですか?」
「……はいっ」
少し恥ずかしそうにうなずく結衣に、涼也は穏やかに笑って言った。
「あのとき、あの歌を教えてくれたじゃないですか。
“癒された”って言葉がすごく印象に残ってて……それ、僕にも伝わった気がして、嬉しかったんです。
自分が歌ってるわけじゃないのに、不思議ですよね。でも、なんか…あったかくて」
その言葉に、結衣の胸がじんわりと温かくなった。
(……本当に、この人に出会えてよかった)
⸻
その日の帰り道、結衣はスマホを開いた。
涼也のアカウントを表示すると、ふと目に留まったのは――フォロー欄にある、自分の名前。
(……えっ)
思わず息をのむ。
《フォローされました:涼也》
通知欄に、たしかに表示されていた。
(……なんで、私だってわかったんだろう)
思い返せば、あのとき彼の目がふっとやわらかくなった気がした。
「癒されたって言ってくれた方ですか?」
まるで当然のようにそう言ってくれたあの笑顔。
名乗らなくても気づいてもらえるなんて──運命?
ひとりごとのように、ぽつりとつぶやいた。
今は――
憧れていた人のフォロー欄に、自分の名前がある。
それだけで今日はきっと、いい夢が見られそう。
お忙しい中、読んでいただきありがとうございました!