第58話「天使と初デート」
初めてのデートで、二人の距離は少しずつ縮まっていく。楽しい時間を過ごしながら、大悟の中で芽生える新しい気持ち。大悟が選ぶ答えとは?
おしゃれなカフェにて
「ここ、前から気になってたんです。ちょっと女子っぽいかなって思ったけど…大丈夫でした?」
「全然。むしろ、俺一人じゃ絶対入れないから嬉しいよ。里奈ちゃんセンスいいな」
そう言われた瞬間、里奈の顔がぱっと明るくなる。
「よかったぁ。大悟さんと一緒なら、なんでも美味しくなっちゃいそうです」
店内は自然光が差し込んでいて、テーブルに運ばれてきたパスタとパンケーキがまるで雑誌のページみたいに可愛らしく映える。
「わぁ〜見てください、可愛すぎません!? 写真、撮ってもいいですか?」
「もちろん。…俺も撮ってみようかな、せっかくだし」
お互いに写真を撮り合いながら、ふと目が合い、その瞬間、二人とも思わず照れ笑い。
「こういう時間、なんかいいな。のんびり話せるし…癒されるっていうか」
「私も。大悟さんと過ごす時間、すごく心地よくて…今日、すごく楽しみにしてたんです」
――どうしてこんなに自然に笑えるんだろう。もう、“天使”って言葉しか出てこない。
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ライブ会場付近に移動
「今日のライブ、楽しみすぎて…昨日眠れなかったです(笑)」
「気持ち分かるなあ。まさか、同じアーティスト好きだったなんて、ほんとビックリだよ」
「確かに、友達に言っても“誰それ?”って言われます(笑)」
「分かる(笑)俺も何回か説明するのめんどくさくて諦めた」
「でも、大悟さんが知っててくれて嬉しかったです。ちょっと運命感じちゃいました」
「うん、俺も」
どこか照れくさそうにしながらも、二人の間に自然な笑顔がこぼれる。
「結衣ちゃんには、まだ会ったことないんですけど…涼兄が、何回も“結衣ちゃんが〜”って話してくるから、なんだか私も会ってみたくなっちゃって」
「それ、結衣喜ぶと思うよ。あいつ、異性の友達ほとんどいないタイプで、同性だと安心するって言ってたし」
「そうなんだ…結衣ちゃん、可愛いなあ」
「あいつの話になると、涼也止まんないからな」
ニコッと笑ってから、里奈がちょっといたずらっぽく言う。
「大悟さんも、私のこと…たくさん考えてくれたら嬉しいな」
「……っ!(今の…本気で言ったの!? え、えっ!?)」
思考が一瞬でフリーズする。今のは冗談? いや、笑ってない。これは…反則だろ。
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ライブ会場前
ライブ会場の前は、開演を待ちきれない人たちで溢れ返っていた。
熱気とざわめきが肌にまとわりつきそうなほどで、里奈がふと足を止める。
「実は、ライブに行くの初めてで。笑」
「そうなんだ。意外!」
笑いながらも、どこか落ち着かない様子の里奈がぽつりとこぼす。
「人が多すぎて…ちょっと怖いかも」
大悟は周囲を見回してから、そっと彼女の手を握る。
「大丈夫、俺がついてるから」
驚いたように目を見開いた里奈が、すぐにふわっと笑う。
繋いだ手のぬくもりが、不安を溶かしていく。
人混みのざわめきが、二人だけをそっと包んでくれているようだった。
まるで、世界の音が少しだけ遠くなったみたいに。
里奈の鼓動が、大悟にも聞こえてしまいそうで、少しだけドキドキした。
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ライブ後、帰り道
帰り道、会場を出てもまだ人混みは続いていた。
ざわつく通りの中、二人の歩幅は自然に揃っていて、肩が何度も優しく触れ合う。
「なんか、夢みたいだったね」
「うん。現実に戻りたくないかも」
人混みの中にいても、二人だけが静かな空間にいるような感覚だった。
「今日、一緒に過ごせて本当に楽しかったです…ありがとうございます!」
「俺も楽しかったよ。なんか、時間があっという間で…」
夜風に吹かれながら、二人の歩幅が自然に揃っているのが心地いい。
「これからも、いろんなとこに行きたいな」
「……ライブってさ、楽しいけど…けっこう体力持ってかれるんだなって思った(笑)」
「えっ…じゃあやっぱり、ちょっと疲れてました?」
「まぁ、ちょっとだけ。でも、里奈ちゃんが笑ってたから元気出た」
「……っ(感動)ほんとは疲れてたのに…それでも一緒に楽しんでくれて、笑ってくれて…やっぱり私の見る目に狂いはなかったな」
足を止めて、ふと大悟が静かに口を開く。
「……里奈ちゃん。その、実は俺も、今日で気づいたことがあって」
「えっ? 何ですか?」
少しうつむき加減に、けれど しっかりとした声で。
「会ってまだそんなに経ってないのに、こんな気持ちになるなんて…自分でも驚いてる。でも、里奈ちゃんのこと、本当に大事だって思った」
ちょっと驚いた表情を浮かべた里奈が、すぐにやわらかく微笑む。
「大悟さん…」
「こんな気持ちになったの、初めてだから…だから、これからも…もっと一緒にいたい。付き合ってくれませんか?」
にっこりと微笑んで、里奈が頷く。
「もちろん…大好きです」
お忙しい中、読んでいただきありがとうございました!