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再生回数7回のラブストーリー  作者: 市善 彩華
第10章 ナデシコ ── 細やかな日々に咲く想い
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第56話「心の中に生きている」

あえて誰にも言わなかった——

優し過ぎた弟のことを、結衣は涼也に初めて打ち明ける。

心の中にずっと生き続ける命を、どうか、そっと受け止めて。

「ずっと話せなかったことがあるの。

でも……涼ちゃんには、打ち明けたくなって」


夜の静けさの中、結衣は そっと口を開いた。


「実は……私、弟がいたの」


隣に座る涼也が、小さくうなずく。


「小さい頃から優しくて、本当にいい子だった。

でも、いじめにあって……誰にも言わないまま、自分で命を……」


言葉を絞り出すように、結衣は続けた。


「気づいてあげられなかった。それが、悔しくて……。

誰にも言えなかった。……ううん、あえて言わなかったんだと思う。

優しい子だったから、きっと誰かを心配させたり、悲しませたりしたくなかったんだよね……」


涼也は、そっと結衣の手を握った。


「そうだったんだね……話してくれてありがとう。

きっと優しくて、素敵な弟さんだったんだと思うよ」


結衣の目に、涙がにじむ。


「今もね、私たちの心の中で生きてる。

ずっと見守ってくれてる気がするの」


涼也は静かに頷いた。


「……結婚の挨拶のとき、その話が出なかったのは、きっとそういうことだったんだよね。

知らなかったけど、もし知ってたら、お線香をあげさせてもらいたかった。

今は……せめて、心だけでも届いてほしいって思ってる」


「……ありがとう」

結衣は涼也をまっすぐ見つめ、安心したように、ふっと微笑んだ。

「涼ちゃんのその気持ち、きっと届いてるよ」


***


数日後。

涼也は大悟と、二人きりで話す機会を得た。


「実は……弟さんのこと、結衣ちゃんから聞きました」


「そうか……ついに涼也にも話したか」


「きっと、優しくて素敵な弟さんだったんですね。

ご挨拶に伺ったとき、何も知らなくて……

もし知っていたら、お線香をあげさせてもらいたかったんです」


しばらく黙っていた大悟は、ゆっくり言葉を紡いだ。


「俺たちの心の中には、今もあいつが生きてる。

ただ、その話をすると、どうしても場がしんみりしちまうからな……。

けど、弟を思ってくれるその気持ちだけで、十分だよ。ありがとな」


そう言って、ふっと目を細める大悟。


――その胸に、あの日の記憶がよみがえる。


(回想・少年時代の大悟)


「お父さん、お母さん!結衣に過保護になっちゃダメだから!

俺が代わりに過保護になるから!嫌われ役は……俺がやるから!」


妹を守りたい一心で叫んだ、幼い日の誓い。

それは今も、大悟の中で、静かに生き続けていた。

お忙しい中、読んでいただきありがとうございました!

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