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再生回数7回のラブストーリー  作者: 市善 彩華
第10章 ナデシコ ── 細やかな日々に咲く想い
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第55話「この日を、ずっと待ってた」

特別な日、特別な場所で過ごす二人の時間。

穏やかな夜の空気に、やさしい灯りがともります。

5月1日、結衣の誕生日当日。

夕暮れが静かに夜に溶けていく頃、海辺近くの広場に、涼也と結衣の姿があった。


「……ほんとに、ここで花火できるの?」


「うん。市役所に確認済み。ここなら手持ち花火OKだって。20時までなら大丈夫って言われた」


「え、ちゃんと確認してくれたの? 涼ちゃん……ありがと」


「だって去年、“来年は当日にお祝いしたい”って言ったからさ。ちゃんと覚えてたよ」


その言葉に、結衣の胸がふわっと熱くなる。

去年の秋、半年遅れで祝ってもらった誕生日。あのときの約束を、ちゃんと叶えてくれる人。


「──結衣ちゃんのために、今日は全部準備してきたよ」


そう言って差し出されたのは、色とりどりの花火セット。

線香花火、ススキ花火、そして──


涼也はイタズラっぽく笑いながら、ポケットから小さな箱を取り出した。


「じゃじゃーん。手持ちだけじゃなくて、ヘビ花火も持参です。……まあ、俺がやりたかったってのもあるけど」


「……! ヘビ花火……!」


思わず声が漏れた。


「言ってたでしょ? 好きだって。だから こっそり探してきた。……俺も、実は一番好きなんだよ。ヘビ花火」


「えっ、ほんとに!? やば……! うれしい……! 運命だよ、これ!」


「ふふっ。わかるよ、それ。……ちょっとだけ気持ち悪くて、でもクセになるよね、あれ」


二人は笑い合いながら、ライターに火を灯す。

小さな火花が夜の空気の中でぱちぱちと弾けて、世界がやわらかく色づいていく。


「こういうの、ずっとやってみたかったんだ」


「俺も。人混みもないし、5月の夜って意外と気持ちいいよね」


「うん。初めてだけど、きっと忘れられない。私の誕生日に、涼ちゃんとこうして……花火してるってこと」


火が消えるたび、また新しい火を灯す。

二人の時間は、ゆっくり、でも確かに積み重なっていった。


結衣は嬉しそうに微笑みながら、小さな線香花火に火をつける。

静かにパチパチと灯る、小さな光。


その火を見つめながら、ふっと呟いた。


「……来年は、籍入れて“旦那さん”になってるかもしれないし?」


涼也は、彼女の横顔を優しく見つめた。

結婚の挨拶は済ませているが、入籍の日取りは まだ決まっていない。

翔平あたりに「え、まだ決めてないの?」なんて軽く茶化される未来が目に浮かんで、思わず頬がゆるむ。


やわらかな笑みを浮かべて、そっと彼女の手を握る。


「うん。そのつもりでいるよ」


その手は あたたかくて、ずっと前から隣にあったような安心感をくれる。


線香花火が小さく火花を散らしながら、ぽとりと落ちる。

でも、二人の間にある灯りは、消えることなく──


──来年も、再来年も。

ずっとこの先も、同じ夜空の下で、二人で笑っていられますように。

去年交わした約束を、今年ちゃんと叶えてくれる人。

そんな存在がそばにいることのあたたかさを、少しでも感じていただけたら嬉しいです。

ヘビ花火の思い出も、二人だけの特別な灯りになりました。

第14話との繋がりを感じていただけると幸いです。


お忙しい中、読んでいただきありがとうございました!

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