第54話「オルゴールの音色」
全ての積み重ねが、今カタチになる。始まるのは、新たな日々。
結衣と涼也は、静かな丘の上に佇むオルゴール館に到着した。
アンティーク調の建物に一歩足を踏み入れると、柔らかな木の香りと微かに響く音色が二人を包み込んだ。
「ここ、すごく素敵……! 落ち着くね」
結衣は目を輝かせ、小さなオルゴールにそっと耳を寄せる。
「うん。俺も好きな場所なんだ。オルゴールの音色って、心にしみるよね」
展示コーナーを歩きながら、自然と二人は手を繋いでいた。
ふと、結衣が看板を見つけて足を止める。
「ねえ、私たちもオルゴール作れるんだって。すごくない?」
「ほんとだ。一緒に作るなんて楽しそうだね。どんなメロディーにしようか?」
結衣は少し考えて──ふと、ポケカラで初めて聴いたあの歌を思い出す。
「あの曲、覚えてる? ポケカラで聴いた、最初の歌」
涼也は目を細めて頷いた。
「もちろん。あれが結衣ちゃんと初めて繋がったきっかけだったよね」
「うん……たまたま開いたリンクで、再生回数は たった7回だったのに、すごく心に残って」
「覚えててくれて嬉しいよ。あれ、俺にとっても特別な曲なんだ」
結衣は照れくさそうに顔を赤らめ、涼也の手をぎゅっと握り直す。
「私ね、あの曲をオルゴールにして、ずっと思い出に残したいなって思ったの。涼ちゃんと一緒に」
涼也は優しく微笑んだ。
「じゃあ、決まりだね」
二人は制作体験コーナーへ向かい、木の温もりを感じる台座を選んだ。
ネジを巻き、小さな音の粒を少しずつ重ねていく。
作業に戸惑う結衣の手に、そっと涼也の手が添えられた。
音色が形になっていくたびに、二人の思い出も一つずつ重なっていく。
「……できた」
結衣がそっとネジを巻くと、オルゴールから静かにメロディーが流れ出した。
あの日、スマホ越しに聴いたあの声と重なるように。
「再生回数、今度は“二人で何回でも”だね」
結衣が微笑むと、涼也は ふっと笑いながら彼女の肩に寄り添った。
「うん。一生分、聴こう」
「素敵な思い出が、また一つ増えたね」
結衣は涼也を見上げながら、そっと言った。
「うん。これからも、ずっと一緒に思い出を作っていこうね」
二人は手を繋いでオルゴール館を後にした。
その夜、小さな音色が二人の心を優しく響かせ続けた。
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