第53話「“好き”が止まらない」
信じる気持ちが二人を導く。改めて向き合う、心と心。
実家での挨拶を終えた帰り道。夜風が心地よく吹く中、結衣がぽつりとつぶやいた。
「なんか、ちょっと緊張しすぎて肩凝ったかも」
すぐに涼也が気遣う。
「肩揉もうか? 頑張ってくれたお礼だよ」
「ふふ、じゃあ遠慮なく。ご褒美だと思って受け取っとくね」
そう笑う結衣に、涼也も嬉しそうに返す。
「ほんとに? じゃあ今度ちゃんとやるね、俺の全力マッサージ」
「ありがとう。楽しみにしてるね」
歩きながら、涼也は改めて結衣のことを褒めた。
「それより、すごく自然だったよ? 家族とも ちゃんと打ち解けてたし、うちの母なんて めちゃくちゃ嬉しそうだった」
「そうだったら嬉しいな……ほんと、涼ちゃんの家族ってあったかいね」
結衣は、少しだけ本音を漏らす。
「私もね、“お姑さん”って聞くと、ちょっと怖いイメージしかなかったから、正直不安だった。でも、涼ちゃんのお母さん、すごく優しかった」
涼也は笑いながら答える。
「結衣ちゃんがよく優しいって言ってくれるけど、俺が優しいとしたら それは多分、母さん譲りだな」
「納得〜。でも、私にだけ特別に優しいなら、それが一番うれしいな」
ふと立ち止まり、涼也は結衣をじっと見つめた。
「……そっか。じゃあ、これからも結衣ちゃんにだけは特別に優しくする」
頬をほんのり赤く染めながらも、結衣は照れ隠しのように笑ってみせた。その笑顔は、どこか くすぐったくて、でも確かに嬉しそうで。
「ちゃんと覚えててよ? 今の、絶対だからね」
立ち止まった涼也は、少し照れたように、それでも真剣な目で見つめて言った。
「結衣ちゃんが俺の前でずっと笑ってくれてたら、それが一番幸せだよ」
「気づいたら、ずっと笑顔でいられるんだよね。……涼ちゃんがいると」
結衣がそっと微笑むと、涼也もふっと笑みをこぼした。
「俺も結衣ちゃんといると、気づいたら笑ってる」
少し照れたように言葉を続ける。
「無意識に笑顔でいられる関係って……よく考えたら、すごいことだよね」
二人の間に流れる沈黙は、心地よくて あたたかかった。言葉がなくても、通じ合える何かがそこにあった。
「……結衣ちゃんが笑っていられるなら、それだけで十分。俺の前では、これからもずっと、心から笑っててほしいな」
「……涼ちゃんって、発言までイケメン過ぎるよ。もっともっと好きになっちゃうじゃん」
結衣の言葉に、涼也は優しく微笑む。
「じゃあ、もっと好きになってもらえるように、これからもいっぱい甘やかすね。俺のことだけ、見てて?」
「……私も、涼ちゃんのことだけ見てるよ。よそ見は禁止だからね?」
「うん、了解。これからも、いっぱい振り回して?」
「えっ……振り回してるつもりはないんだけど?」
「ナチュラルに小悪魔なんだよね、結衣ちゃんって」
「……なんかそれ、ほめてる? 悪口?」
「ううん。結衣ちゃんになら、振り回されたいって思えるから。不安もワガママも、涙も、全部ぶつけていいんだよ」
「……もう、イケメン過ぎ。ずるいよ、涼ちゃん」
そうして二人は、そっと手を繋ぎ直し、ぬくもりを確かめ合うように夜の道を歩き続けた。
街灯に照らされた影が、ぴたりと寄り添って伸びていく。
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