第48話「強くなるしか、なかったから」
誰かの強さの裏にある、言葉にしきれない想い。
涼也が少しずつ心の奥を見せてくれる夜。
結衣の優しさが、そっと寄り添います。
過去と向き合うことで、未来への絆が深まっていく──そんなお話です。
夜、静かな部屋。窓の外では風が木々を揺らし、かすかな音だけが響いている。ソファでうたた寝していた涼也に、結衣がそっとブランケットをかける。
「…最近、少し顔が疲れてるよ。無理してない?」
「あぁ、ごめん。ちょっと思い出しててさ、昔のこと」
「昔…?」
涼也は小さく息をつき、天井を見つめる。
「俺、母子家庭で育ったんだ。父親は…俺が小さい頃にいなくなって。それからは、母がずっと一人で頑張ってくれてた」
「…そうだったんだ」
「中学くらいからかな。洗濯とか、買い物とか、自然と俺の仕事になってた。弟の面倒も見て、勉強して…高校に入ってからはバイトもしてた。全部が“当たり前”だったから」
結衣がそっと涼也の手を握る。ぬくもりが静かに伝わる。
「高校のとき、母が一度過労で倒れてね。家でも職場でも、無理して笑ってたんだって。そのときやっと気づいたんだ。…あぁ、俺、全然気づいてなかったなって」
「涼ちゃん…」
「そのときから思ったんだ。大事な人には、無理してほしくないって。笑っててほしいって。母にも、弟にも、そして……」
「……私にも?」
涼也は、ゆっくり頷く。
「うん。結衣ちゃんには無理してほしくない。つらいときは頼っていいし、疲れたら甘えていい。…俺が支えるから」
結衣の瞳に、ぽろりと涙がこぼれる。
「…ずっと頑張ってきて、それが当たり前なんて…そんなの、涼ちゃんにしかできないよ…」
「しかも、誰にもひけらかすことなく、こんなふうに静かに話してくれるなんて……生き様までカッコよすぎるよ……」
涼也は少し照れながらも、優しい声で言った。
「そんなふうに言ってくれるの、結衣ちゃんだけだよ」
「ありがとう…涼ちゃん。そんなふうに思ってくれて、嬉しいよ」
「これからも、ずっと一緒に笑っていこうね」
二人の手が、そっと重なる。静かな夜に、ぬくもりだけが優しく灯っていた。
お忙しい中、読んでいただきありがとうございました!