第43話「結衣の強さ」
未来を共に歩むための覚悟。決意が、確かなカタチとなる。
「X見たよ。……涼ちゃん、何も悪くないのに」
スマホを握りしめたまま、結衣は悔しそうに小さく唇を噛んだ。
最近、涼也の名前が少しずつSNSで知られるようになってきた。料理研究家としてのコラボや活動が注目される一方で、それに対する“アンチ”の存在もちらほら見かけるようになっていた。
《なんか女々しくて無理》《また彼女の影響じゃないの?》《中身スカスカの量産型》
(……は?)
結衣の胸の中に、ふつふつと怒りが湧き上がっていく。
(涼ちゃんは、誰よりも一生懸命で、優しくて、不器用なくらい真っ直ぐな人なのに。どうして、こんな言い方されなきゃいけないの……?)
涼也は、何も言わずに黙っている。でも、それが余計に苦しかった。
そして、結衣は無意識にスマホの裏アカウントを開いた。
アカウント名は、《同じこと思ったw》。
──彼女だとはバレない。でも、彼にだけは きっと伝わる名前。
怒りとともに、スマホを握る手が ほんの少し震えた。
(……許せない)
その指が止まることなく、画面に言葉を打ち込んでいく。
『そんなクソリプを送るあなたの方が、よっぽど女々しいですよ』
送信を押した瞬間、画面が少しだけスッキリして見えた。
***
夜。スマホが鳴った。
「……結衣ちゃん?」
電話越しに少し照れたような、でも嬉しそうな声が聞こえた。
「バレた?」
「ふふ……“同じこと思ったw”って、絶対結衣ちゃんでしょ。俺にしか分からない名前で笑っちゃった」
「うん……ごめんね、裏垢で勝手に。なんかもう悔しくて……気づいたら送ってた」
「すごく嬉しかった」
結衣は、少しだけ照れてスマホを握り直す。
「理不尽なこと言われてる涼ちゃん見たら、黙ってられなかったの。……涼ちゃんのこと、大好きだから」
「……ありがとう。結衣ちゃんがそうやって怒ってくれるの、ほんとに救われるよ」
電話越しでも伝わってくる、涼也の穏やかな笑み。
「結衣ちゃんって、見た目は か弱そうなのに……ほんとは、すごく強いよね」
「え……そ、そうかな?」
「うん。俺、そんな結衣ちゃんが、めちゃくちゃ好きだよ」
結衣は、耳まで熱くなりながらも、小さく「ありがとう」と答えた。
そして、心の中でそっとつぶやく。
(私は、涼ちゃんを守りたい。どんなときでも)
***
不器用な二人の恋は、SNSの雑音にさえ負けない強さを、少しずつ育てていた。
お忙しい中、読んでいただきありがとうございました!