第42話「信じたいから、伝える」
大切だからこそ、ちゃんと伝えたい。
誤解も不安も、言葉にして乗り越えた先に見える、二人の確かな想い。
少し照れくさくて、でも真っ直ぐで、優しい気持ちの詰まった回です。
結衣は、驚いたように瞬きをして、それからふっと笑った。
「鈴木さんは、家族思いの優しい上司で、もうすぐ二人目の赤ちゃんが生まれるんだって」
「え?」
涼也が目を見開くと、結衣は柔らかく続けた。
「涼ちゃん、ちょっと考えてみて。私、こんなに涼ちゃんに惚れ込んでるのに、それ以上が出てくるわけないじゃん。鈴木さんは、ただの同僚だよ。心配しなくていいから」
「……」
「それにね、その同僚にも言ってるの。いっつも“私には勿体ないくらい素敵な彼氏なんです”って、惚気てるんだよ?」
結衣は、そっと涼也の手を取った。
「鈴木さんのことだって、何もやましいことないから、涼ちゃんにちゃんと話してるんだよ」
「涼ちゃんが勘違いしたら、そのたびに私がちゃんと言葉で伝えればいいんだよね」
手を握ったまま、結衣は優しく微笑んで続けた。
「思ってることは、ちゃんと言葉にして伝えなきゃ伝わらないもん」
涼也は その言葉に、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
自分がどれだけ彼女に大切に思われているか、信じられる。
「……俺こそ、ごめん。勝手に勘違いして女々しいこと言って」
結衣は、ふわりと笑って首を横に振った。
「うん、誤解だってわかってる。でもね、大丈夫。私は、涼ちゃんのことしか見てないよ」
***
別れ際、涼也はバッグから一つのノートを取り出した。
「これ……前に結衣ちゃんがくれたノート、すごく嬉しかったから。今度は俺の番」
「え……?」
「ちゃんと残しておきたくて、作ったんだ。遠距離の間も、ちゃんと気持ち伝えたくてさ」
ページを開くと、そこには二人の写真がたくさん貼られていた。
手書きの言葉も、絵も、小さな思い出の欠片たちも。
ページをめくっていくうちに、ある一枚の小さなスクショが目に入った。
“蠍座と牡牛座の相性:離れられない運命”
「あ……これ……」
結衣は思わず声を漏らす。
「あのときの……占いのスクショ……」
スクショの下には、涼也の小さな手書きの文字が添えられていた。
《いいことは信じたい派》
「……あのときのスクショ、印刷して貼ってくれたんだ。なんか……感動しちゃった……」
そっとページを撫でながら、結衣の目にじんわり涙がにじむ。
「こんなふうに想ってくれてたんだね……」
ふっと微笑むと、涼也が少し照れたようにつぶやいた。
「だって、俺……この占い、すごく当たってると思ったから」
そして、最後のページには手作りのおみくじが貼られていた。
『大吉』
縁談:涼也と結婚すると吉
「……ふふっ、なにこれ。かわいい」
「……うん。俺の願望、かな。結衣ちゃんとずっと一緒にいたいって」
結衣は、おみくじの紙をそっと撫でながら微笑んだ。
「……これ、ずっと大事にする。私が死んだら棺桶に一緒に入れてほしい。宝物がまた一つ増えちゃった」
「……そんなに大切にしてくれるの?結衣ちゃんにとって、俺とのことがそこまで…嬉しいな」
「……よくよく考えたら、棺桶って。笑 俺より長生きしてね?」
「ううん、涼ちゃんの方が長生きして。私、その分 大事にされたいもん」
「……筋トレ、頑張ろうかな。長生きできるように」
「ふふっ、じゃあ私は野菜……たまには食べようかな!」
「……それでも、ちょっと嬉しい。笑」
***
不安も、距離も、ちゃんと伝え合えば乗り越えられる。
言葉を重ねて、二人の絆は また少しだけ強くなった。
25話・26話のときに密かに残していた「占いのスクショ」どちらのアプリのスクショも大切な思い出。今回は、結衣と涼也の絆を象徴するアイテムとして登場しました。
伏線として楽しんでいただけたら嬉しいです。
お忙しい中、読んでいただきありがとうございました!