第41話「君の隣にいる誰か」
遠距離になってから、ふとした瞬間に生まれる小さな不安。
知らない名前、楽しそうな声、そして電話越しの笑い声に、揺れる涼也の気持ち――。
言葉にならないモヤモヤが、彼の心を静かに包みます。
「ごめん、今ランチに向かってて……あ、鈴木さん、こっちの階段の方が早いですよー!」
スマホの向こうから聞こえてくる結衣の明るい声。
それに応じるように、男性の低い笑い声が混じった。
(……鈴木って誰だよ)
スマホを握る涼也の胸に、モヤモヤとした黒い感情がじわじわ広がっていく。
***
結衣ちゃんが転勤してから しばらく経つ。
遠距離の生活にも、なんとなく慣れてきた……はずだった。
けれど今日、ふとした会話の中で、彼女がよく一緒にいる同僚――鈴木という男性の存在を口にしたとき。
そのときの結衣ちゃんの声が、あまりにも楽しげだったから。
涼也の心には、不安という名の小さなトゲが刺さった。
「また……一緒にいるの?」
その問いに、電話の向こうの結衣は一瞬、沈黙した。
「うん、仕事の合間にランチしてただけ。部署が同じで、一緒に動くことも多いから」
「……そっか」
どうしても、すぐに納得する気持ちになれなかった。
自分でもわかってる。信じなきゃいけないのに。
でも、胸の奥に芽生えた小さな嫉妬が、簡単には消えてくれなかった。
***
週末。
涼也は思い切って結衣の街を訪れた。
少し気まずい空気を抱えたまま、待ち合わせ場所で結衣ちゃんと合流する。
けれど、結衣ちゃんは変わらない笑顔で「涼ちゃん!」と手を振ってくれて、その姿に思わず胸がぎゅっとなる。
カフェで向かい合いながらも涼也の表情は、どこか曇っていた。
「……ごめん。俺さ、今日駅で偶然見かけたんだ。結衣ちゃんが男の人と話してるの」
「え……」
「電話のときも一緒にいたし、なんか……ずっと隣にいるみたいで」
涼也は目を伏せながら、ぽつりと続けた。
「正直、ちょっと……嫉妬した」
その言葉に、結衣の目が優しく細められる。
「……その、鈴木さんって人、どんな人なの?」
涼也は目を伏せたまま、ゆっくり続けた。
「信じなきゃって思うんだけど、声がすごく楽しそうだったから……勝手に不安になってさ」
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