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再生回数7回のラブストーリー  作者: 市善 彩華
第7章 ハナミズキ ── 永続する愛の証
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第40話「転勤前の宝物」

ほんの小さなぬくもりが、二人の信頼を育んでいく。

春の空気がほんのり暖かくなってきた三月の週末。

転勤を目前に控えた結衣と涼也は、最後のデートに出かけた。向かったのは、郊外にある静かな庭園。色とりどりのチューリップが風に揺れ、春の光に優しく包まれていた。


「この前、結衣ちゃんが“また行きたい”って言ってたからさ。ちゃんと覚えてたよ」

涼也が微笑みながら言うと、結衣は嬉しそうにうなずき、照れくさそうに笑った。

「覚えててくれたんだ……嬉しい!ありがとう、涼ちゃん!」


二人で写真を撮ったり、カフェでのんびり過ごしたり──

あっという間に時間は過ぎていく。でも、それは とてもあたたかい時間だった。


結衣が「ちょっと歩こうか」と涼也を誘い、並んで歩いた先にあった公園のベンチに腰を下ろす。

穏やかな沈黙の後、結衣は そっとバッグから一冊のノートを取り出した。


「これ、今日渡したくて。見てみて?」


涼也が表紙をめくると、そこには二人の写真がたくさん貼られていた。


ノートをめくりながら、涼也は言葉を失っていた。

ページの一つ一つに、二人の思い出が詰まっていて──

そこには結衣のまっすぐな気持ちが、ありのままに綴られていた。


庭園での笑顔、カフェでのおしゃべり、手をつないで歩く後ろ姿──

そして、びっしりと手書きの文字が添えられていた。


「涼ちゃんとお花畑楽しかった〜!」

「あのときの顔、今でもはっきり覚えてる」

「どんどん好きが大きくなってくの、止まらないよ」


「……これ、俺たちの後ろ姿?」

「うん。あのとき気づかなかったけど……撮ってくれてたんだって」

「もしかして……大悟さんが?」

「うん。何か、突然画像送られてきて。『何これ?』って思ったら、私たちの後ろ姿で……笑」


涼ちゃんにもらった大吉のおみくじ

あえて、ここに貼るよ

恋愛と縁談のとこ見て見て!


「あ…あのとき、ちゃんと中身見てなかった。めちゃくちゃいいこと書いてあるじゃんね!」

涼也が結衣の方を見てニヤける。

結衣が「でしょでしょ!これで私たち離れてもきっと大丈夫な証拠だね!」と笑う。


涼也はページをめくる手を止めて、ふっと笑う。


「…これ、全部…結衣ちゃんが……って、結衣ちゃんしかいないか……」


その言葉の後、彼の目に静かに涙が浮かんだ。

こぼれ落ちる雫に気づかないふりをしながら、ノートを抱きしめる。


「引っ越しの準備もあって絶対大変だったはずなのに……」

「それでも、こんなに素敵なものを作ってくれて……本当に、嬉しいよ」

「結衣ちゃんの気持ちが、全部詰まってるんだなって、伝わってきてさ…」


ぐしゃっと笑いながら、でも泣いていた。

あふれ出す思い出に、胸がいっぱいになる。


初めて出会った日。ぎこちなく交わしたメッセージ。

笑い合った時間、すれ違った夜、そして今──全部が大切で、愛おしい。


「離れたくないって、こんなに思うんだな……」


ぽつりとこぼれた言葉に、結衣は そっと手を重ねる。


「大丈夫。離れても、涼ちゃんは私の特別な人だよ」

「……ありがとう、結衣ちゃん。これ……ほんとに、宝物にする」と、嬉しそうに微笑む。


そして、涼也は結衣をぎゅっと抱きしめながら「結衣ちゃん、これからもこうやって一緒にいろんな思い出を作っていこうね」と言う。


その夜。

一人になった部屋で、結衣は ふと自分の手首に視線を落とした。

涼也からもらった腕時計が、春の光の名残を受けて静かに輝いている。


離れていても、大丈夫。

涼ちゃんが不安になる暇もないくらい、いっぱい伝えていこう。

この時計みたいに、ずっと心の中で時を刻んでいけるように──。

今回は「転勤前の宝物」と題して、春の優しい空気の中で交わされる二人の“ぬくもり”を描いてみました。

離れてしまう時間も、きっと二人にとって大切な思い出になる──そんな気持ちを込めています。


第23話のおみくじとの繋がりを感じていただけると嬉しいです。


お忙しい中、読んでいただきありがとうございました!

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