第39話「兄弟の会話」
突然の出来事に揺れながらも、支え合う強さがそこにある。
涼也の部屋に、翔平がふらりと訪れた日。突然の来訪に涼也は少し驚いたが、どこか嬉しそうに兄弟の時間を楽しんでいるようだった。
翔平はリラックスした様子で、ソファに腰を下ろしながら言った。
「なぁ、涼兄。結衣さんとのこと、うまくいってるんだろ?」
涼也はソファに座ったまま、はにかむように笑った。
「うるさいな。いきなり何なんだよ」
翔平は くすっと笑い、その笑顔につられて涼也も思わず笑みを浮かべる。
「でもさ、付き合いだしてから ずっと幸せそうだし。なんか、頼りにされてる感じもするし」
涼也は ふっと視線を落とし、少しの間だけ考え込む。
「うん。結衣ちゃんのこと、大事に思ってるから」
翔平はニヤリと口元をゆるめる。
「そっか。頼りにされてるって、涼兄にとっても新鮮だったんじゃない?」
涼也は照れ隠しのように視線をそらし、笑いながら答える。
「まぁ……確かにな。最初は そう思ったけど、今はただ一緒にいられることが嬉しいんだ。どんな困難があっても、結衣ちゃんとなら乗り越えていけるって思う」
そして、ふと つぶやくように続けた。
「……結衣ちゃん、転勤になるんだって」
翔平は少し驚いたように目を見開いた。
「えっ、そうなの? 急じゃん……それ、大丈夫か?」
涼也は真剣なまなざしで、ゆっくり頷く。
「うん。俺たちは、大丈夫だと思う」
翔平は表情を引き締め、力強く頷いた。
「そっか……なら大丈夫だな。涼兄と結衣さんなら、遠距離でも絶対に乗り越えられるよ」
涼也をじっと見つめた後、少しだけ考え込むような間を置いて翔平が言う。
「なら、結衣ちゃんといい時間を過ごしてさ。涼兄の幸せ、ちゃんと守ってやれよ」
涼也は照れくさそうに笑い、軽く頭を下げた。
「ありがとう、翔平」
そのとき、翔平がぽつりと呟いた。
「……結衣さんと話したかったな」
その言葉を聞いて、涼也は思わず笑いながらスマホを手に取る。
「じゃあ、かけるか。翔平が話したがってるって言っとくよ」
少し はにかみながら通話を繋ぎ、しばらく何かを話した後、翔平にスマホを手渡す。
「……結衣さん、翔平です。転勤、大変ですよね。でも――涼兄は今も結衣さんにゾッコンなので、安心してください」
結衣は思わず吹き出して、照れくさそうに笑った。
「ありがとう、翔平くん。遠距離になっても、2人の気持ちは変わらないよ」
しばらくして、涼也がスマホを受け取り、ふたたび声をかける。
「結衣さん、涼也です。……俺は結衣ちゃんにゾッコンのままなので、安心してください」
結衣も笑いながら、冗談っぽく返した。
「ちょっとw 私も涼ちゃんにゾッコンのままなので安心してくださいっ」
電話越しに、2人で笑い合う。その声があまりに楽しげで、翔平が気になったように尋ねた。
「何話してたの?」
涼也は顔を赤らめながら笑い、口元にそっと指を立てた。
「……内緒」
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