第37話「変わらない気持ち」
言葉にした本音が、二人の心をさらに近づけていく。
結衣の部署異動が決まり、地方の支社への転勤が告げられたのは、旅行から帰って数日後のことだった。
ある週末、二人は少し早めの夕食を終え、車の中で静かに並んで座っていた。涼也がハンドルに手を置いたまま、ちらりと結衣の方を見る。
結衣は、何かを言いたそうにして、けれど言葉にできずにいた。そして、ぽつりとこぼす。
「……涼ちゃん、ごめんね」
「え?」
涼也が顔を向けると、結衣の目には うっすらと涙が浮かんでいた。
「転勤が決まったの。多分、来月には引っ越すことになると思う。私、涼ちゃんのこと、すごく大好き。でもね……」
声が震えながら続く。
「涼ちゃんのことを考えると、遠距離なんてきっと負担になるし、寂しい思いをさせちゃうって思ったら……別れた方がいいのかなって、ぐるぐる考えてたの」
涼也は しばらく黙っていたが、やがて小さく息を吐き、穏やかに言った。
「……悩ませてごめんね。気づいてあげられなくて、ごめん」
そう言って、そっと結衣の手を握る。
「でも、俺は違うよ。離れる距離なんて、俺の気持ちには関係ない」
結衣が顔を上げると、涼也は まっすぐに彼女を見つめていた。
「俺はね、結衣ちゃんと一緒の未来を考えてる。距離が離れるくらいで、その気持ちが揺らぐことはないよ」
結衣の目から、大粒の涙がこぼれる。
「……涼ちゃん」
「毎日連絡するし、俺が会いに行く。どれだけ離れても、結衣ちゃんのこと、大切にしたいって気持ちは変わらない」
結衣は堪えきれず、涼也の胸に顔を埋めた。
「同棲…できなくなっちゃったね」
小さな声に、涼也は優しく微笑みながら言う。
「ううん。俺はね、付き合ったときからずっと変わってない。最初から、結衣ちゃんと結婚したいって思ってたんだ」
結衣が驚いたように顔を上げる。
「……ほんとに?」
「うん。だから、結衣ちゃんと一緒にいられる未来があるなら、それが一番幸せなんだ」
結衣は何も言わず、ただ静かにうなずいた。
彼の胸の鼓動が、ゆっくりと、優しく響いていた。
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