第35話「離れがたくて」
旅の終わりが近づく中で、二人は美しい景色とささやかな寄り道を楽しむ。心に残るひとときが、名残惜しさと優しい想いを静かに深めていく。
旅の最終日。
朝から天気も良く、二人はゆっくりとチェックアウトを済ませて、海沿いの市場へと足を運んだ。
「うわぁ、生ウニだって!」
結衣の目が輝く。
「食べてみる?」と涼也が微笑むと、結衣は元気よく頷いた。
新鮮な生ウニをその場で味わいながら、二人は顔を見合わせて笑う。
「美味しい…(泣)」
「ウニの甘みが口の中に広がって贅沢すぎる!」
「飽きるくらい食べてみたい。笑」
(いつか結衣ちゃんの夢を叶えてあげたい!…でも、痛風にしたくないしな…)
「涼ちゃん何考えてるの?」
「結衣ちゃんのことだよ!当ててみて!」
「うーん…もしかして、私の夢を叶えてあげたいけど、そんなに食べたら痛風なるしな…みたいな?」
「大正解!」
「涼ちゃんは、いつも自分のことより私のことを優先してくれるからね!
むしろ、私が涼ちゃんの夢を叶えたいよ!
何か夢教えて!」
涼也は少し照れながらも、真剣な表情で言った。
「俺の夢か……結衣ちゃんが、ずっと幸せでいてくれることかな」
結衣は少し驚いた顔をしたが、すぐに優しく微笑んだ。
「涼ちゃんらしい。笑 ありがとう……優しすぎて、泣けてきちゃうよ」
「結衣ちゃんが笑ってるのを見るだけで、俺は すごく幸せなんだ。変わらず、ゾッコンだからね」
その言葉に、胸の奥がじんわりとあたたかくなる。
結衣は涼也を見つめながら、そっと微笑んだ。
「私もゾッコンのままだし……涼ちゃんが幸せでいてくれることが、私の夢だよ」
二人は しばらく見つめ合った後、ふっと微笑み合い、またゆっくりと歩き出した。
その後、二人は お互いの家族や職場へのお土産を選び、ゆったりとした時間を楽しんだ。
帰り道、涼也が「少し遠回りしていい?」と聞いてきた。
「うん、どこ行くの?」
ナビにはない、小さな入り江にたどり着く。
人気のない、静かで穏やかな場所だった。
「偶然見つけたんだ、前にドライブしてた時に。ちょっと寄ってみたくて」
「素敵な場所…誰もいないね」
しばらく景色を眺めた後、車に戻り、夕方近くに結衣の家へとたどり着く。
玄関前で、二人は名残惜しそうに立ち止まった。
「今日は、ありがとね。すごく楽しかった」
「うん…私も。ほんとに、全部が幸せだった」
ふと、結衣が小さく言った。
「もうちょっと一緒にいたいな…」
その言葉に涼也がそっと手を伸ばし、結衣を優しく抱き寄せた。
「俺も…離れたくない」
抱きしめたまま、しばらくそのまま動かず、二人の心音が重なる静けさの中で、想いを確かめ合っていた。
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