第34話「優しさの夜」
老夫婦に部屋を譲り、涼也と結衣はツインルームで一夜を共にすることに。お互いの優しさと冗談交じりのやりとりが、二人の距離をさらに縮める。
老夫婦に部屋を譲った結衣と涼也は、スタッフの配慮で空いていたツインの部屋に案内された。
「同じ部屋だけど、安心してね」と涼也が微笑む。「何もしないから。だって、結衣ちゃんに嫌われる方が絶対イヤだからね」
結衣は少し照れながらも、そっと笑って言った。
「ありがとう。……涼ちゃんなら、襲われても…いいよ」
涼也は目を見開き、顔を真っ赤にしながら慌てて言った。
「や、やめて…本当に襲いたくなるから…」
まるで修行僧のように目を閉じ、自分を律するような仕草に、結衣は くすっと笑った。
「そんなに真剣な顔しないでよ。冗談だってば」
部屋に戻り、結衣はシャワーを浴びてからベッドに入り、隣のベッドでは涼也がすでに横になっていた。仕事の疲れもあってか、あっという間に静かな寝息が聞こえてくる。
「もう寝てる…」と結衣は微笑みながら、自分も毛布を肩まで引き上げ、目を閉じた。
──翌朝。
早く目が覚めた涼也は、隣のベッドで眠る結衣の姿に気づく。
無防備な寝顔と、肩から少しはだけたパジャマに、思わず視線が引き寄せられてしまう。
「無防備すぎるよ、結衣ちゃん…」と小さくつぶやきながら、慌てて目を逸らす涼也。
(見ちゃだめ、見ちゃだめ…)と必死に心を落ち着ける。
しかし、心の中では「可愛すぎて、修行が足りない…」と小さくため息をついた。
しばらくして、結衣がゆっくりと目を開けた。
「ん…おはよう、涼ちゃん」
「おはよう、よく眠れた?」と涼也は優しく笑いかけた。
「うん、安心してぐっすり。隣に涼ちゃんがいてくれたからかな」
ほんの少し甘さが増した朝の空気。二人の距離は、また少しだけ近づいていた。
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