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再生回数7回のラブストーリー  作者: 市善 彩華
第6章 シャリンバイ ── 強く静かに寄り添う心
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第33話「思いやりの一歩」

旅行先で予想外のトラブルが起きた結衣と涼也。部屋が取れていないことに驚く二人。しかし、思いやりの心で、ある決断を下す。

旅行の予定を立て、楽しい時間を過ごしている結衣と涼也。

しかし、ホテルに到着してみると、予想外の事態が待ち受けていた。


「申し訳ありません、お客様。予約が重なってしまって、部屋が空いておりません」


フロントスタッフが、困った表情で頭を下げる。


結衣と涼也は顔を見合わせ、涼也は すぐにスマホを取り出して予約内容を確認した。


「こちらの予約内容に間違いはないはずです。私たちの部屋は確保されていますよね?」

スマホの画面を見せながら、穏やかに伝える。


スタッフは一瞬戸惑ったが、すぐに頷いた。


「はい、お二人のご予約は間違いなく承っております。ただ、本日急なシステムトラブルがありまして……一部のお部屋が二重に予約されてしまったのです」


「そうでしたか。ご対応ありがとうございます」

涼也はスタッフに軽く微笑み、結衣もほっとしたように頷いた。


そのとき結衣の視線が、ふと前方へ向かう。

受付の前で立ち尽くす老夫婦──どこか不安げな表情が、彼女の心を揺らした。


「涼ちゃん、あのご夫婦、気になるね」

結衣は静かな声で言った。


涼也もその視線を追い、受付前に立ち尽くす老夫婦を見つめた。

周囲に聞こえないよう、小さな声で話しかける。


「……あのご夫婦、部屋がとれてないのかもね」


「多分そうだよね。さっきからずっと、受付の人と話してる」


「俺たち、二部屋予約してるでしょ? 一部屋、譲ったらどうかな」


結衣は少し驚いた表情を浮かべたあと、ふわっと微笑んで頷いた。


「うん、いいと思う。私も同じこと考えてた。それに……同じ部屋なら、涼ちゃんと一緒に過ごせる時間、もっと増やせるしね」


思わぬ言葉に、涼也は少し照れながら笑い、目を細めた。

自然と、二人の間にあたたかい空気が流れる。


そして、涼也が静かに言った。


「じゃあ、譲ろうか。俺たち、二部屋あるし」


受付に戻り、スタッフに事情を伝えると、老夫婦に無事、一部屋を譲ることができた。


「本当にありがとうございます。助かります……」

感謝の言葉に、老夫婦の目には うっすら涙がにじんでいた。


「いえ、私たちも大丈夫ですから。どうぞ、ゆっくり休んでください」

結衣は優しく言った。


ほんの少しの決断で、誰かを笑顔にできる。

そんなことを、静かに二人は感じていた。


──予想外のトラブル。

けれど、その中で見せた思いやりの心は、どんな景色にも勝るほど深く、結衣と涼也の心に刻まれていった。

お忙しい中、読んでいただきありがとうございました!

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