第32話「心の傘をひらいて」
初めての旅行。思い通りにいかないこともあるけれど、それすらも二人にとって特別な瞬間になる──
そして、旅行当日。
天気予報に反して晴れた空の下、結衣と涼也は駅で待ち合わせをした。
「晴れてよかったね、涼ちゃん!」
『ほんとに!予想以上だね。でも、結衣ちゃんが言ってた通り、もし天気が悪かったら日帰りにしようって話してたし』
結衣は にっこり笑いながら、思い切って言った。
「でも、こんなに天気がいいし……やっぱり、お泊まりにしようかな?」
涼也は少し考え込んでから、にやりと笑いながら言った。
『おお!実は、二部屋予約してたんだ。もし急に泊まりたくなったらって思って。でも、キャンセル料なんて気にしないで。俺、払いたいから』
結衣は驚きながら、少し心配そうに言った。
「え?涼ちゃん、大丈夫?腹痛いの?」
その言葉に、涼也は吹き出して大笑い。
『確かに腹痛い(笑)でも、違うんだ。“お金払いたい”って意味だから!』
結衣は顔を赤くしながら、恥ずかしそうに言った。
「え、あれ…“払いたい”って、なんか恥ずかしい…」
そんな結衣の姿を見て、涼也は にこにこしながら言う。
『可愛いな、結衣ちゃん。そうやって照れる顔も、全部好きだよ』
結衣は顔を手で隠して、少し恥ずかしそうに笑った。
「もう、涼ちゃん!」
*
ふと、涼也が思い出したように言った。
『そういえば、この前大悟さんに会ったときさ、「涼也の手料理食べてみたい」って言ってくれて、ちょっと嬉しかったんだ』
「えー、私も食べたい!てか、ひとりじめしたい!」
(大悟さんの言った通りだ……可愛い)
「この前、家に行ったとき作ってもらえなかったもんね。あのとき」
『あ!あの占いで盛り上がった日も、楽しかったよね』
「……うん。でも、あの日は私が色々買ってっちゃって、自分でチャンス潰したかも…」
『いやいや、結衣ちゃんには いつでも作るよ!なんなら弁当でも作って持って行こうか?』
「涼ちゃん、素敵彼氏すぎるよ。いつもありがとう」
『俺の方こそ、だよ』
お互いに目を見つめ合って、ふと、優しく微笑み合った。
*
今回の「ひとりじめしたい!」というセリフは、第27話で大悟が涼也に言った冗談──
「ダメ!涼ちゃんの手料理は、私がひとりじめするんだから!」の伏線でした。
あのときの涼也の「言われたいっす、それ」が、ついに叶う展開に。
繋がりを感じていただけたら嬉しいです。
お忙しい中、読んでいただきありがとうございました!