第17話「……俺、何かしたかな?」
ほんの少しのすれ違いが、胸の奥をざわつかせる。
けれど、向き合って言葉にできたとき、心の距離はそっと近づいていく──
そんな帰り道のお話です。
「……そろそろ帰ろっか」
結衣の言葉に、涼也は軽く頷いた。
並んで歩く帰り道。空は、すっかり夜に染まり、街灯が二人の足元を淡く照らしている。
ほんの少しだけ──二人の距離が縮まった気がしていた。
だけど、どこか、ぎこちない空気が流れていた。
【*なんでだろう。さっきから、ちょっと上手く話せない*】
結衣は、涼也の横顔をそっと盗み見る。
笑ってはいるけど、どこか、よそよそしい。無理しているようにも見える。
【*私……何か変なこと言っちゃった?*】
沈黙が続く中、スマホの通知をきっかけに、ふとSNSを開いた。
タイムラインには、偶然にも涼也のXアカウントが流れてくる。
そこには、有名な女性芸能人とのやりとりがあった。
涼也が軽くツッコミを入れ、彼女が笑って返す。
フォロワーの間では、おなじみのやりとりらしくリプ欄は賑わっていた。
【*あ……そっか。やっぱり、そういう人なんだよね*】
心の奥に、すっと冷たい風が吹き抜けた。
「……ん? どうかした?」
涼也の声に、結衣は慌ててスマホを閉じる。
「ううん、なんでもないよ」
微笑もうとしたけれど、うまく笑えなかった。
その後も会話は途切れがちで、駅までの道のりが やけに長く感じられた。
改札前まで来たとき、涼也が ふと立ち止まった。
「……俺、何かしたかな?」
「え?」
「今日の帰り道、ずっと……なんか、結衣ちゃんの様子が変で。
もしかして、俺……気づかないうちに嫌なこと言った?」
【*やっぱり、この人は優しい*】
驚いたような、でも真剣なその表情に、胸がきゅっと締めつけられる。
結衣は一度、大きく息を吐いた。
「……涼ちゃんって、芸能人の人とも仲良いんだね」
涼也は一瞬だけ目を丸くして、すぐに「うん」とうなずいた。
「たまたま共通の知り合いがいて、そこからちょっとね。……投稿、見ちゃった?」
「うん。……なんか、そういうの見ると、ちょっと自信なくすっていうか……」
「結衣ちゃん」
涼也の声が、そっと遮る。
「俺、今一緒に歩いてるの、誰だと思ってる?」
「え……?」
「有名人と話せても、結衣ちゃんと歩く方が俺には、よっぽど特別なんだけどな」
その言葉に、目の奥がじんわりと熱くなる。
「……ごめん。変なことで拗ねちゃって」
「拗ねてたの?」
「……ちょっとだけ、ね」
涼也が笑って、結衣もつられて笑った。
「じゃあ、俺もちゃんと気をつける。誤解されるようなこと、したくないから」
「うん……ありがと」
見つめ合ったまま、しばらく言葉を失った。
遠くで、電車の発車ベルが鳴り響いている。
「……じゃあ、また明日ね」
「うん。また明日」
改札をくぐる直前、結衣は ふと振り返って声を張った。
「ねぇ、涼ちゃん!」
「ん?」
「……明日も、ちゃんと話そ?」
涼也が優しく頷いた。
「もちろん」
【*大丈夫。この人のそばにいると、ちゃんと伝えようって思える*】
少しずつ、この人となら素直になれる──そんな気がした。
お忙しい中、読んでいただきありがとうございました!




