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新世界戦記  作者: アルビオン
第一章
7/31

7:撃沈

4月13日 午前9時40分 ミレリヤ帝国 軍務省



会議は大詰めを迎えていた。

来る対ニホン戦に向けての兵力の編成、作戦の調整と幾人もの将官たちが会議を繰り返している。

当初、地上軍だけで四個師団と総督親衛隊のおよそ五万名の兵力を動員する予定だったが、やはりサドレアを制圧するには不十分ということで本国軍派遣の二個歩兵師団に三個歩兵師団と一個機甲師団で増強することが決定されていた。


「開戦予定は予定通り最後通牒が切れ次第、6月2日の正午に宣戦を布告する。宣戦布告直後に空軍の敵根拠地爆撃ののち地上軍は前進。最終到達地はニホンの同盟国アルビオンの国境までであるーー」


「海軍は大東洋艦隊が西サドレア海に展開するニホン海軍主力を殲滅ののち、敵の海上交通路を遮断する。特に潜水艦隊が重要な役目となるだろうーー」


「空軍は主に爆撃機や攻撃機を主体にニホン軍壊滅を目指すが、海軍とも共同で海上交通路を破壊するーー」

サミュエルの目前で一つの“事業”が為されていくーー。

そう、戦争とは単に戦場で行われるものでない。

全ては最高司令部が敵よりも優れているかで決まるのだーー。

ほくそ笑むサミュエルに手を挙げた人物が居た。

潜水艦隊司令官だーー。

「総統閣下と軍務大臣閣下の命令の元、東サドレア海に潜水艦一隻を派遣していますがーーこの真意をお尋ねしたい」

その発言の瞬間、一同の目が巨大な戦況表示盤を向く。

一隻のみ、完全な敵勢力圏まで進出した潜水艦の姿ーー。

名は『アーヴァス』と表記されているーー。

「20年前の一年戦争ではたった一隻の潜水艦が敵海軍を撹乱させ、同戦争を終結に導く戦果を上げたーー。ここで明言しておこう……『アーヴァス』は敵輸送船を撃沈したのち、ニホン近海にて暴れ回ってもらうーー」


ーーー

午後14時50分 東サドレア海 水深200m ミレリヤ海軍潜水艦『アーヴァス』



水深200mーー。

光がほとんど届かない水深はおよそ200mからと言われているーー。

ミレリヤ海軍潜水艦隊に属するアルヴァロス級潜水艦『アーヴァス』は艦歴六年と最新の部類に入る攻撃型潜水艦だ。

魚雷発射管を六門装備し、敵艦隊への長距離打撃用に対艦ミサイルの垂直発射装置を2基備えている最新鋭艦だ。

ミレリヤが世界最強と自負するアルヴァロス級だったが、配備が始まったばかりでまだ数は少なかった。

とはいえ高出力機関などの高性能機器を搭載したことで潜航能力は飛躍的に上昇し、アルヴァロス級はミレリヤ海軍軍人らが世界最強を“自負”する性能を持っていたーー。


『「アーヴァス」はニホンに我が意思を示すために適当な輸送船を沈めよ』

一時間前の定期連絡で届いた文面をアーヴァス艦長のカラ-ロ-ディーザ中佐は改めて目を通していた。

艦は既にニホン海軍の勢力圏内までに達している。

海軍本部の連中は『ニホン海軍は有効な対潜能力を持たず、潜水艦もまた保有していないーー』と嘯いているようだが、それを信じるほどディーザ中佐は楽天家ではなかった。何しろこちらは乗員109名を預かっているのだ。そしてディーザ同様109名には家族がいるーー。


人生の半分を海の中に身を捧げて来たディーザは長年の経験の元に培われて来た“勘”を信じていた。

出航以来、およそ初めて経験する悪い予感ーー。


それゆえに、敵ソナーに探知されることを防ぐために『アーヴァス』の速力は東サドレア海に入ってからは5ノットを超えることはなかった。

腕を組みながら思案するディーザにソナー員が言った。

「前方、航行する大型船一隻、中型船一隻を探知。定時連絡前に確認したニホン海軍駆逐艦と大型輸送船と思われますーー」

それを聞いた瞬間、ディーザは命令を下した。

司令部からの指令を実行するべくーー。

「潜望遠鏡深度まで浮上。魚雷装填、総員戦闘配置につけーー!」

同時に慌ただしく急変する艦内ーー。

各部署で号令が飛び交い、艦が緩やかに上昇していくことを実感するーー。

厳密には戦争状態ではない現状、危険を犯して浮上し確認するのは文明国の軍人として当然のことだーー。

「潜望遠鏡深度まで到達。艦長、見ますか……?」

潜望遠鏡を覗いていた曹長の言葉に頷いた。

「これはーー」

大型の客船を護衛するニホン海軍艦艇。

やはり艦の塗装は白。そして軽武装だーー。

『発射管室より発令所。魚雷全基、装填完了ーー』

「発射扉開け。一番から二番は駆逐艦を。残りは輸送船を狙え」

そして諸元入力の後ーー。

「魚雷発射ーー!」

ズンーーッという重々しい響きと共に撃ち出されてゆく魚雷の群れーー。

同時発射ゆえに命中率の高い有線誘導ではなく、敵艦の発する音を照準とした音紋追尾式、つまりは無線誘導だ。

「全基、順調に走行。命中まで5分ーー」


自らへ向かう刺客に大型巡視船「みずほ」、大型フェリー「オリオン」号が気づいたときには遅かった。

海面を走る六つの雷跡ーー。

まず最初に被弾したのは手前側を航行していたオリオン号だった。

側面に幾つもの水柱が立ち上がり、船内の乗客乗員1000名は衝撃を前にあちこちへ投げ出された。

慌てて閉められた水密隔壁を破口から侵入した海水は濁流となって船内の左舷喫水線下を襲い、急速に傾きつつあるオリオン号ーー。


「みずほ」が魚雷の接近に気づいたときには命中まで30秒もなかった。

回避機動を取るべく一瞬の間に全速へ加速し、左に大きく弧を描き始めた。

これが護衛艦であったのなら対抗策などいくらでもあったのだろう。

だが不幸なことに「みずほ」は警備救難を目的とした巡視船であった。

魚雷二基は船首付近と煙突直下の機関室に直撃。

乗組員たちは脱出する暇もなく、「みずほ」は真っ二つに割れて海中に没した。

轟沈であったーー。


この撃沈事件が直後に日本中で報道された瞬間、日本国民は判ったのだった。

平和とは容易に創れるものではないということにーー。

そしてこれが70年間味わうことがなかった戦争の前触れだということにーー。

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>同時発射ゆえに命中率の高い有線誘導ではなく、敵艦の発する音を照準とした音紋追尾式、つまりは無線誘導だ。 →同時発射ゆえに命中率の高い有線誘導ではなく、敵艦の発する音を照準とした音紋追尾式、つまりは…
> 当初、地上軍だけで四個師団と総督親衛隊のおよそ五万名の兵力を動員する予定だったが、やはりサドレアを制圧するには不十分ということで本国軍派遣の二個歩兵師団に三個歩兵師団と一個機甲師団で増強することが…
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