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新世界戦記  作者: アルビオン
第一章
5/31

5:攻防

攻防


4月6日 午前7時20分サドレア亜大陸沿岸 西サドレア海



睨み合いは既に夜を徹し、12時間が過ぎ去ったところだった。


航路防衛に当たっていた海上保安庁第11管区巡視船「しきしま」が航行中、不審な船影を発見し、臨検しようとする最中、国籍不明艦らは現れた。

不審な船影ーー貨物船はそのおかげで逃げ失せ、憤慨する乗組員だったが、すぐに動揺へと変わる。

国籍不明艦隊は西サドレア海の岩礁地帯に眠る石油や天然ガスの埋蔵量について調査中の民間の海洋調査船「オリエント号」に接近して強行接舷を図ろうとしてきたのだ。

慌ててそれを阻み、睨み合いが続くこと12時間。

その間に応援として「はてるま」、「いしがき」、「よなぐに」が駆けつけたが相手が軍艦である以上、機関砲が主武装のこちらとしては細心の注意を払わねばならないーー。


「しきしま」においても応援到着により負担が軽減されたとはいえ船長、松本 永 二等海上保安監は眠気に耐えていた。

30分ほど仮眠を摂ったとはいえこうも緊張感があっては眠れたものでは無い。

「航海長、現在の速力は……?」

「12ノットですな」

ありがとうーーと言った松本は船橋からオリエント号を見つめる。

試験採掘中だったオリエント号は迫り来る国籍不明艦に動揺し、掘削装置を切り離したときに二枚あるスクリューの右側を損傷していた。

よって最大速力20ノットを発揮できず、ノロノロと航行している最中だ。


「それにしてもあの艦は……デカいですな」

航海長の呟きにも似た発言に同意する。


国籍不明艦三隻のうち、最も巨大な大型艦ーー。

旧ソ連海軍の巡洋艦を思わせる重厚な造形に背負い式の連想砲塔が二基。

ミサイル発射装置が至る所に鎮座し、照準こそこちらに向けていないものの戦闘配置についていることはこちらからでも窺える。


そもそも、軍艦に対して対処すべきのは本来、海上自衛隊ではないかーー!?

政治サイドーーというよりは未だ残る左派系野党の猛反発により、東サドレア海。

つまりは遥か後方の海域での待機を余儀なくされているーー。


一方、政治サイド。

首相官邸地下の危機管理センターには閣僚たち、そして自衛隊サイドのトップたちが詰めていた。

西サドレア海の睨み合いもそうだが、新たに生まれた問題があった。


少なくない閣僚たちがチラチラと気丈に振る舞う菅原 真 外務大臣を覗き見ている。

かく言う大河内もそうだった。

彼の息子ーー菅原 和人三等陸尉がサドレア大陸において生死不明となったのは閣僚たちの間では公然の秘密となっている。


三年前に喧嘩別れしてから事実上の絶縁状態になっているらしいが当人同士ではなく家族間としては電話等でやり取りしていたというがーー。

喧嘩別れしたとはいえ実の息子が生死不明、いや、おそらくは死亡と見做されている現状に大河内は同じ父親として痛ましい思いだった。


その菅原外相が職員から何やらを報告を受けると大河内に歩み寄る。

「総理……」

菅原 真 外務大臣が顔を強張らせながら何枚かに束ねられた文書を手渡した。

「ミレリヤ帝国……?」

外交文書であることは一目瞭然だ。

しかし、ミレリヤ帝国とは一体ーー?

内容を読み進めると同時に大河内も顔を強張らせるーー。

「なんてことだーー!」



午前10時32分 ミレリヤ帝国 首都ヴェリオン二番街 軍務省



「蛮族はようやく我らの存在を知った頃でしょうな」とは参謀総長の言葉だ。

軍務大臣オドヴァズ-デラ-サミュエル元帥は軍務省庁舎の最上階にある執務室にあった。

従兵に入れさせたケンドラン産の紅茶を嗜みながら後ろを振り返った。

純白の海軍常装を纏った将官ーー。

「レンディーくん、外交交渉が開かれるのはいつ頃だったか……?」

「本官は政治のことは詳しくありませんが、ニホン人が応じれば一週間以内には開催されるでしょうな」

海軍本部長キャメラ-ラク-レンディー海軍大将は答えた。


第三国経由で届けられた外交交渉の打診は今頃、連中まで届いているはずだ。

だが武官の我々がその内容を話したところで何の意味があるのかーー?と疑問に思うレンディーにサミュエルは言った。

「来たる戦役では海軍はどれだけの艦隊を動かすのだったか……」

「ケンドランを根拠地とする大東洋艦隊が主力となりますが本国艦隊からも一部増援を出します。任務としては敵艦隊撃滅、海上封鎖などですな」

大型巡洋艦2隻、巡洋艦1隻、駆逐艦9隻を主力として編成される大東洋艦隊は国外に展開する艦隊としては最大の規模だ。

空母がもう一隻あればーーと呟こうとするのをサミュエルは押し留めた。

自身が空母建造の予算編成を阻んだからだ……。


栄光あるミレリヤ海軍の象徴ともいえるのがアルガネン級航空母艦2隻だろう。

巨大な洋上基地としてその搭載する艦載機を駆使して敵艦隊を撃滅、あるいは地上への戦力投射ーーを任務とするアルガネン級だったがミレリヤにおいて虎の子として扱われ、本国艦隊所属となっている。

三年前に改良型を追加建造し、ローテーション運用が可能な三隻体制が海軍サイドから要望が為されたが、植民地獲得戦争の戦力拡充の必要性から陸軍の兵力増強あるいは正面火力の充実を優先させるというサミュエルの判断で取り止めとなっている。


浮かべる洋上基地こと空母を投入できれば直接ニホン本土も叩けるだろうーーと考えたが、弱小国なぞに危険を犯して空母を前進させるメリットが思いつかないサミュエルだった。

「私の記憶では潜水艦6隻を通商破壊に向かわせるはずだったが……」

「その通りであります」

「これは我らが総統閣下の御命令であるが……追加でもう一隻、潜水艦を展開してくれ」

疑念に満ちた表情をするレンディーにサミュエルは言った。

「この作戦が成功すれば否が応でもニホンは我らと戦争せざるを得なくなるのだよーー」



再び場面を首相官邸に戻す。

第三国経由で届いた外交交渉打診、そしてその第三国ことズイル公国から得られた情報によればミレリヤ帝国は議会共和制国家であるらしいが、世界各地に植民地を持ち、かつ覇権主義であるーー。

つまり、サドレア大陸と西サドレア海で対峙する相手はまごうことなき明確な国家であるということだーー。

それも凶暴なーー。


サドレア大陸日本開発区域の境界線から侵入したミレリヤ軍は、目の前に阻む存在がいないことから破竹の勢いで進軍していたがどういうわけか現在は停止し、沈黙を保ったままでいる。

「おそらくはーー外交交渉をするというのでそれが終わるまでは停戦するという意ではないでしょうか」という菅原外相の予測は正しかったが、当の自衛隊からすればそれどころではない。

サドレア大陸調査部隊の隊員は一個中隊およそ200名。

それも小火器が主体であるというのに対する敵、ミレリヤ軍は衛星から確認できるだけでも一個旅団以上はいる。

更に、連中の後方基地である植民地では着々と兵力の動員が行われているようだった。

大河内は自衛隊各部隊に対して訓練名目で同地域への展開を命じてたが、海路あるいは空路を取るにしても少なくない時間がかかる。

それにーー。

「一連の事態にマスコミが勘づき始めたようですーー」

混乱を防ぐために一時的な緘口令こそ敷いているものの、民主主義国家において完全な情報統制というのは無理があった。

「仕方あるまい、正午に緊急記者会見をする」

続けて大河内が言った。

「それで交渉はいつ頃になりそうだーー?」

「早ければ4日後には始められる予定です」

不幸中の幸いというべきか、先方が指定したのがズイル公国、つまりは身の安全が保証される中立国で開催されることだろうーー。


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>現在のミレリヤ海軍の戦略は植民地の維持と列強と中小国への威圧 >揚陸戦 この戦略だと大型空母は必要な投資とは言えますが、経費が嵩みそうだなと。 多分サミュエル元帥が3隻目の空母建造の海軍の案を取り…
>アルガネン級航空母艦2隻 >ローテーション運用 >正面火力の充実を優先 航空巡洋艦みたいな火力と航空運用能力のある軍艦はない感じですかね。モスクワ型ヘリコプター巡洋艦みたいに揚陸戦への対応と火力も…
海上保安庁も流石にミサイル巡洋艦相手ではこうなりますね。後のことを見ても、寧ろよく調査船を拿捕させなかったといえますな。 ミレリヤ海軍は海保のやるこうした海難救助や不審船取締りといった海上警察的な任務…
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