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新世界戦記  作者: アルビオン
第一章
23/31

21:蜂起

感想と高評価本当にありがとうございます!

どちらも作者のモチベーションを維持する上で大変助けになっておりますが、読者の数が伸び悩んでいるのにダメージを勝手に受けております笑

高評価も700台であと200と少しで1000にまで届くんだ……!

感想欄には裏話などいろいろあるのでぜひ覗いてみてください。


ところでプロローグから見返していたら内容がアレ過ぎて恥ずかしくなってくる。

一章完結したら改変するか………?

最後に艦載機の設定をやっぱりF-2にしようかと悩んでいるのだ。

6月15日 午後13時30分ミレリヤ帝国首都ヴェリオン 総統官邸(エイザ-リョール)



荘厳さを極めた総統官邸はその見た目と裏腹に内部の長大な廊下を血相を変えた官僚や官邸付きの軍人たちが“相次ぐ凶報”を前に駆け回り、騒乱の如く怒声が飛び交っていた。

会議室の円形上に机を取り囲むように座る閣僚たちは皆、顔を青くし総統であるゼネウスもまたそうだった。

閣僚たちの背後に控える官僚の一人はこの場でもごく少数の女性職員だった。

この会議室に入ることが許されるのは閣僚と認可された軍人、上級職の官僚のみであることから女性職員ーー蒼い眼の女は目の前の光景を『青人形の大安売り』と内心で評していた。


男尊女卑の傾向が強いミレリヤにおいて、国家の最高権力が集うこの場に入れるということは、よほど彼女が優秀であるかそれとも権力者の娘であるかないということであったが、彼女の場合それは両者とも当てはまっていた。


目の前の男どもはそれ卑怯な奇襲だ、現地軍は寝ていたのかなどと喚き立てているがディトランドがケンドランとの国境部に兵力を集結させつつあるのは開戦直後から知り得ていたことではないか………。

そしてディトランドへの警戒を怠ったケンドラン方面軍に忠告しなかった政府もまた同罪だろうーー。


目の前の男どもーーことゼネウスらであったが、彼らが問題としているのはサドレア戦線に展開するケンドラン方面軍を現地司令部が本国に無断で引き揚げたことであった。

現地軍の暴走ーーと捉えた本国政府が命令撤回を命じた時には遅く、我先にへと現場部隊が撤退を始めたことでニホン軍は障壁の無くなった大平原を自由に進軍できるのだーー。

「ケンドラン方面軍によればディトランド軍の制圧した地域ではミレリヤ人への虐殺や略奪、暴行が多発しており本国からの支援を求むとのことでーー」

「現地人どもは反ミレリヤ運動を取りやめ、不気味なほどに沈黙しております」

加えてもう一つの凶報ーー。

「サドレア戦線崩壊とディトランド南侵に帝国議会や民衆は情報開示を声高に主張しております。特に兵士を供給する庶民層は中央広場で大規模な抗議活動を開始しており、反対勢力……民衆同盟がこれを支援しているようでーー」

軍務大臣のサミュエル元帥は苦々しい表情を隠そうとせずに壁際に控える蒼い眼の女ーーを睨みつけた。


蒼い眼の女ーーハンナ-ニレヴェル-ラル総統付き補佐官は抑揚の無い事務的な口調で言った。

「重ねて申し上げますが、私は父とは一切の私情を挟むことなく職務に勤めております。女である私がこの場に居るということが何よりの証明であると考えますが」

有無を言わせぬ眼光にあのサミュエルでさえもたじろいだ。

ゴホンッと少しばかりの気まずさの色を持った咳払いでゼネウスは場を取りなした。

「本職とあの男の間に確執があることは認めるが、ラル君は国家への忠実なる奉仕者であることは総統の名において保証する」

とはいえサミュエルの言うことも尤もであった。

ディトランド軍南侵がトドメとなり情報統制は最早、飾りとなっている。

特にサドレア戦線の崩壊と尋常ではないほどの死傷者の存在は、戦場に父や兄あるいは息子を送り出した庶民層の不支持は大規模な抗議活動へと繋がり、暴動寸前の状態となっている。

「仮に……だ。ニホンと講和できたとして、軍はディトランドを追い出すことができるのか?」

その言葉にサミュエルを除く閣僚たちは口々に反対の意思を示した。

「なりませぬ、なりませぬぞ閣下。蛮族と取引するようなことがあっては植民地人どもはこれ幸いにと暴れ出しますぞ……!」

「そうですとも。それに政局がーー」

弾幕を張るように叫ぶ閣僚らを前にゼネウスは色をなして怒鳴った。

「黙らんか!無垢な将兵を戦地に送り出し死傷させたのは我らであろう……!これ以上無駄死にをさせることはできん………してサミュエルよ、どうなのだ?」

静まり返った議場は軍服姿の一人の閣僚に視線を集める。

「必ずやディトランド軍を撃破致します……!」

その言葉に震えが混じっているのを肌で感じたゼネウスは顔色を変えて言った。

「サミュエルよ。もしやそれほどまでに情勢は危ういのか?」

沈黙ーー。

それを肯定、と受け取ったゼネウスは思わず天を仰いだ。

神よ………!

何故に帝国の栄光を閉ざされるのですかーー!?


それはこの場にいる誰もが抱いた心境であったに違いない。

開戦から破竹の勢いで進撃するニホン軍ーー。

無敵であったはずの精強なる帝国軍は大地、大海原、蒼空において尽く敗北し、生まれたのは筆舌に尽くしがたいほどの大損害………!

ならばどうすると言うのかーーゼネウスは声を低くさせ重々しく告げた。

「もし、万が一。ニホンとの停戦がならず、帝国がニホン軍、ディトランド軍、現地人反乱の三正面作戦に直面した時には………だ。“死神の鎌”を彼の地に振り下ろすことになるやも知れんな………」

その言葉と共に議場は凍りついたかのように静まり返った。

沈黙する会議室を打ち破ったのは扉を蹴破るように入室した高官だった。

そしてーー。

「ケンドランが……!ケンドランで現地人が一斉に蜂起しましたーー!」

破滅へのカウントダウンを数える時計があるのだとすれば。

時計の針が動き出す音をハンナは聴いた気がした………。


ーーー

午後14時15分 ミレリヤ領植民地ケンドラン タランド市



断続的に響く銃撃音ーー。

雷鳴の如く轟く砲声ーー。

ついこの前までミレリヤ人はこの街、そしてこの地の支配者であった。

圧倒的な軍事力は独立を願望するケンドラン人を徹底的に弾圧し、ケンドラン人もまた抵抗する気力を失いつつあった。

だからこそミレリヤが極東の島国と戦争になったとケンドラン人が聞いた時は、誰もがその何処と知らぬ国の民もまた我々と同じように敗れミレリヤの数ある植民地の一つに加えられるのだろうと、確信していた。

しかし物事の成り行きは真逆であった。

ニホンなる国家の軍隊は無敵であったはずのミレリヤ帝国軍を陸海空全てにおいて叩きのめし、ついにはミレリヤ軍自体が撤退したのだ。

誰もがそれを自分のことのように喜び、酒場は強欲な植民地警察に接収されぬように隠しておいた年代物の酒を開け、人々と共に密かに祝杯をあげた。


我らケンドランも再び独立をーー!

そう願うケンドラン人が生まれたのは当然のことだろう。

だが、不思議なことにケンドラン各地に潜む独立軍勢力は沈黙を続けたままだったーーように見えた。

ディトランド南侵の一報が届けられた数時間後、放送局占拠と独立を呼びかける宣言を持って独立軍勢力は文字通り一斉に蜂起したのだった………。


「正面!装甲車が来たぞーー!」

ミレリヤ人街を次々と制圧するケンドラン人たちの前に現れた植民地警察の装輪装甲車ーー。

この間までは彼らにとって装甲車とは同胞を踏み潰す悪魔の手先も同然の恐怖の対象であったは今は違うーー。

「対戦車ロケットを喰らいやがれってんだ!」

火飛沫を撒き散らしながら飛翔した携帯対戦車ロケット弾は暴徒鎮圧用に設計された装輪装甲車の薄い装甲を貫き、扉から火だるまに包まれた隊員らが飛び出してくる。


かつてこの街の支配者だったミレリヤ人の姿は見る影もなく、鎮圧部隊として投入された隊員らは市内各所の武器庫から略奪した重装備と“独立戦争”という熱狂の渦中にいるケンドラン人たちを前になす術もなく各個に撃破されていた。

下等民族と罵り、弾圧していた対象が強力な反乱軍となればどうなるかーー?

実際に捕えられたミレリヤ人らはやはり大なり小なり暴行を受け、憎しみを注がれたミレリヤ人は悲惨な運命を辿っていた。

それを恐れた開拓民たちは鎮圧側が不利だと察するや否や、持てる限りの家財を背負い鉄道を伝い脱出しようとしたが、ケンドラン全土が三つ巴の戦乱に巻き込まれている最中ではどうしようも無かった。

ここタランドでは基地機能を喪失したとはいえ未だ十分な港湾能力があり、自衛隊の攻撃を免れ、港の外れに停泊していた貨客船数隻には大挙として脱出しようとするミレリヤ人が押し寄せているが、タランドだけでも万単位のミレリヤ人が船を伝い脱出できるかと言われれば物理的に不可能な話であっただろうーー。


では、蜂起した独立軍のお膝元であるこのタランドでは立場が逆転し、港に殺到するミレリヤ人をどうしたのかーー?と問われればそれは実に人道的な対応であったと言える。

独立軍司令官のドゥビア-バレンジは自らの思想もそうであるが潜入した特殊作戦群隊員の助言もあり、日本の支援を取り付けるには“文明的”な対処が必要だろうと考え、全土で暴れ回る同胞たちに人道的な対応をするように命じていたが、過激な上に勢力が違うが故に統制の効かない北部諸勢力には聞きいられることは無かった。

とはいえ、過半の地域では人道的な対応が成され、このタランドでも海軍基地北部の広場を非戦闘区域として設けていた。


数時間前まで市内各所で雷雨の如く鳴り響いていた戦闘音は、今では散発的なものとなり優勢なる独立軍は組織的な抵抗としては最後となる抵抗をする総督親衛隊の残党を追い詰めていた。

植民地警察も事実上その機能を喪失し、残るは一個中隊に満たない総督親衛隊の戦闘員らは朽ち果てたタランド基地の司令部庁舎に立て篭もっていた。


ドォォンーーッ!

周囲を威圧する砲声に特殊作戦群に属する藤堂一尉は背後を顧みた。

ミレリヤ軍主力戦車「ヴェルガー3」が砲身から硝煙を吹き上げ、独立軍兵士たちが歓声を上げる。

駐屯地から鹵獲したのかヴェルガー3のように少なくない戦闘装甲車輌がケンドラン人の手によって扱われている。

「トウドウ大尉!」

駆け寄る一人の青年ーー。

一見、日本の若者と変わらない平凡な風貌であったがよく注視してみれば、滲み出る覇気は軟弱な一般人であれば直ぐに気圧されるほどの強さがあった。

この青年こそが独立軍リーダーのドゥビア-バレンジなる者だった。

ガロム-62自動小銃に弾倉を装填しながらドゥビアは言った。

「さっきの砲撃で溶接されていた正面扉が開いた。街の部隊にも聞いたがやはり司令部庁舎に籠城する敵で最後だ」

あい分かった、と頷く藤堂一尉。

「突入部隊は俺に続け!」

藤堂一尉やドゥビアの他、特戦群隊員や独立軍兵士が敵司令部突入に備えて集う。

「ドゥビア。やっぱりアンタは後ろで控えていたほうがいい。アンタに死なれちゃ俺らにとってもだが同胞が悲しむどころじゃ済まないぞ」

指揮官先頭は華々しいが、同時に戦死のリスクも格段に上がる。

特に独立軍司令官とあっては藤堂一尉だけでなくドゥビアの忠実なる部下たちもなおさら引き止めようとするのが多かった。

「カズキ。その時はその時さ。私は偶々、独立軍の指揮官となっただけで替えなぞいくらでもいる。独立戦争にあって戦場(いくさば)で死ぬのならば本望だ」

そう言いドゥビアは配下の兵と共に駆け出した。

やれやれ、英雄ってのは何でこうもカリスマ性に溢れるんだろうねーーと自身もそれに惹かれるのに苦笑いするもそれに続く。

「突入!」

手榴弾が投げ込まれ、爆発を認めると同時に次々と突入する戦士たちーー。

爆裂した手榴弾によって傷ついた総督親衛隊の兵士らがなおも抵抗するのを冷静に処理しながら、屋内を進む。

気がつけば藤堂一尉の手には中長距離用に装備していたHK416から短機関銃の代名詞とも言えるMP5に変わっていた。

「この蛮族め!」

死角から一斉に踊りかかるミレリヤ兵らへの特戦群隊員たちの電光石火の一撃……!

咄嗟の出来事に対応できなかったドゥビアらケンドラン人は目を丸くし、驚嘆の声を上げた。

「流石だな」とドゥビア。

「まぁな」と威張らずに返した藤堂一尉であったが、特殊部隊の一員であるからにはこのような事態に対処できないとなると致命的である。とはいえ並大抵の人間には不可能な神業に驚くのは当たり前だろうーー。

「間も無く二階だーー」

傾斜の急な階段を登る先にある扉が二階へと続く道であった。

ケンドラン兵の巨漢の男が鍵が掛けられた扉を蹴破ろうと踏み出したが、それを隊員の一人が遮る。

「まて。おそらく連中、待ち構えているぞ………」

藤堂一尉の頷いたのを認めた隊員が扉の隙間に小型カメラを差し込んだ。

手元のタブレットに映るミレリヤ兵ら。

「奴さん、機関銃で待ち構えていやがる」

「で、どうするんだ?」

ドゥビアの問いに藤堂一尉は言った。

「こいつで吹き飛ばしてやるのさ」

C4の指向型爆薬タイプを扉に貼り付け、あとは起爆を待つのみーー。

「3、2、1……爆破!」

それはノコノコとやってくる蛮族どもを待ち構えていたミレリヤ兵にとって青天の霹靂であった。

爆発音と共に扉は吹き飛び、爆風はミレリヤ兵を薙ぎ倒した。

ダンッ!ダンッ!

全員の一斉射に状況を理解できなかったミレリヤ兵はそのまま鮮血と共に絶命した。

そのまま二階、三階、やがて最上階と次々と制圧し残ったのは抵抗を続けるミレリヤ兵が一人のみーー。

部屋の一室で弾幕を張り続けていたミレリヤ兵だったが、それも撃ち尽くしたのか沈黙する………。

雪崩れ込もうと踏み出した時だった。

「ミレリヤに栄光あれーー!」

手榴弾を抱きながら突進するミレリヤ兵ーー。

なんて奴だ……!

咄嗟にそのミレリヤ兵の脳天を撃ち抜くが、溢れた手榴弾は金属音を響かせながらコロコロと転がった。

「伏せろーーっ!」

反対方向に飛び込み、頭を庇いながら爆発するその時に備えるーー。

神様、俺たちを何とか生かしてくれーー!

一帯を覆う静寂ーー。

「どういうことだ……?」

廊下に転がる手榴弾は確かに安全ピンが抜かれている。

それなのに何故ーー?

「不発………」

運命は俺たちをまだ生かしてくれるらしいーーと安堵のあまり床に崩れ落ちた藤堂一尉たち。


ーー紆余曲折あれ、数分後タランド海軍基地の司令部庁舎にはミレリヤの国旗は下ろされ、青と黄の鮮やかな旗が掲げられた。

かつてのケンドランの国旗である。

時に午後15時05分。

ケンドラン独立軍はタランド以南の半島を完全に掌握。

同時にケンドラン王国の再興を宣言し、国土奪還を目指した。

だが、事態は予想を裏切り思わぬ方向に進んでいくこととなるーー。



ケンドランの国旗はウクライナの国旗を逆さまにしたようなイメージです。

ミレリヤのはまだ何にも決まっておりません。


ところでイージスシステム搭載艦を二章で出したいんだが、どなたか諸元表作ってくれませんかね?(強欲)


そして一章は次で完結です(唐突)

ちなみにもう出来上がっています(近日公開)

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― 新着の感想 ―
>携帯対戦車ロケット弾 ミレリヤ軍の正式装備を使用したのでしょうか。戦車は鹵獲していたのでこれも鹵獲品ですかね。 M72LAWみたいな感じですかね。 >イージスシステム搭載艦 >https://ww…
ちょっと考えてみましたが、もしこの世界の文明が19世紀以前のレベルだったら、イージス艦ではなく砲撃艦を作った方が良かったでしょうね。 『日本国召喚』の、最近の二次創作に、そんな話が有りました。 もっと…
>ドゥビア-バレンジ 独立戦争の仕掛け方、日本の手が入っているとはいえ上手いとしか言いようがない。特殊作戦群とのコミュニケーションも高く、再来のものもあるでしょうが運もありますね。 またミレリヤ人相…
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