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新世界戦記  作者: アルビオン
第一章
2/31

2:ミレリヤ

4月3日ミレリヤ帝国 首都ヴェリオン総統官邸『エイザ-リョール』



その日共和制国家、ミレリヤ帝国の首都ヴェリオンは雲一つ無い快晴だった。

ヴェリオンを縦断するように南北に流れるティラノス川を見下ろす位置にある小高い丘ーー。

フランスのベルサイユ宮殿を思わせる巨大な建築物に広大な緑地。

「エイザ-リョール」、ミレリヤの古語で「丘の宮殿」の通称で呼ばれる「エイザ-リョール」はミレリヤの首班、つまりは時の総統が公私共に活動する総統官邸であった。


「エイザ-リョール」を警備する内務省国家憲兵隊の儀仗兵が行進する広場を抜け、一角の白亜の建物の中央ーー。

一度に大規模な閣僚会合を開催できるように設計された会議室。

暗く抑えられた照明の中、ミレリヤにおける首脳たちの姿はあった。


ミレリヤ帝国総統、ディズナス-ヴィラ-ゼネウスを中心に外務大臣、内務大臣、軍務大臣、財務大臣を中心とした閣議ーー。


中でも列席者の一角は異色だ。

軍務大臣のオドヴァズ-デラ-サミュエル元帥の傍らに座る陸海空の首脳たちも胸元は豪奢に埋め尽くされた勲章は鋭い光を放っている。


ミレリヤで少し政治に詳しい者が居たらこの場の会議を何と呼ぶのか答えられるだろう。

「帝国会議」とーー。


諸外国で言う国家安全保障会議である帝国会議はミレリヤの内外に重大事案が生まれない限り開催されない珍しいものだ。

眩い光を放つ最新式の投影機はミレリヤの植民地、ケンドランと接する亜大陸を会議室中央部に映し出している。


ミレリヤはこの世界に転移して以来、国外へと市場を求め幾度となく植民地獲得戦争を行ってきた。

だが近年、ミレリヤは安全保障上重大な脅威となる国家に直面している。

極東世界に植民地を幾つも抱えるミレリヤとしては、双方の往来を円滑にするためにも海上交通路の確保は国是だ。

だがそれを脅かす国家が出現した。

ニホンーーという王政国家である。

このニホンなる国家は海軍を繰り出し、ミレリヤの商船の主要交通路であるサドレア海に軍艦を遊弋させ始めている。

外務省や植民地省によれば極東植民地からオルジニア大陸のミレリヤの植民地ケンドランに向けて航行していた現地人強制労働者輸送船がニホン海軍に拿捕され、乗組員の行方が不明ーーという事件が既に3件起こっている。

通常の商船がなぜ拿捕されないのかは不明ではあるが少なからぬ船会社がオルジニア大陸を北回りで極東に向かうという北方航路を使い始めている。

だがこれにより輸送代や燃料代、保険料が高騰し倒産寸前の大手船会社もで始めていた。


加えてここ直近、偉大なる帝国ミレリヤは足元に国家の安寧に関わる爆弾を抱えていた。

大企業や資本家らが植民地獲得による需要を見込んで見境なく大量生産を繰り返したことで供給過多ーーの状態にミレリヤは陥った。

目下、表向きはミレリヤの経済が安定しているように見えているのは信用販売と株式による資金調達という需要と供給の関係の実態から離れた状態であり、勘のいい投資家がそれに気付けばミレリヤは間違いなく経済崩壊を起こし、恐慌状態に陥るーー。


そこで軍部ーーというよりは帝国軍内の最大派閥「帝国派」を率いるサミュエルから提出されたのが「サドレア亜大陸侵攻計画」であった。

現状、サドレア航路を維持しているのはケンドラン北西部を根拠地とする大東洋艦隊ではあったが、ケンドラン北部国境線を接するディトランド連邦に対する睨みもあることから航路防衛は困難を極めていた。

そこでケンドランと接するサドレア亜大陸を確保できれば航路防衛は容易になり、新植民地獲得という好景気でこの「供給過多」状態を何とかできるだろうーー。


今日、この場における「帝国会議」はニホンという国家についての概要と侵攻計画の詳細を煮詰める場だった。


映写機の側に対外情報局長官が立った。

「ではこれまでの諜報活動で判明したニホンについての概要を述べさせていただきますーー」

ゼネウスが頷くのを認めると同時に続ける。

「ニホンは皇帝が存在する王政国家であり、人口は一億でありーー」


「一億ーー!」

閣僚の一人が言った。

なるほど、ミレリヤの総人口は二億人に迫る勢いだが、純粋で神に選ばれし高貴なミレリヤ人は7000万人で残りは植民地に巣食う野蛮な現地人だ。

手元の資料によればニホンは純粋なニホン人のみで一億人を超えている故にこれは脅威に違いなかった。

「文明の程度は我が国と同規模か、少しばかり下とあまり変わりがないようですがニホン軍自体はその国家規模に対して十分な兵力ではないようです。ニホンは島国であり海軍には相当な実力が存在するものと考えておりましたがーー」

映写機が洋上を航行する白い船を映し出した。

流線的な船体に連装機関砲を搭載しているが、軍事に疎い文官から見ても軍艦とは思えない奇抜な塗装だ。

「これは我が情報部の偽装商船が撮影したものですが、これがニホン海軍最大の艦艇、『シキシマ』級巡洋艦とのことです」

ゼネウスは苦笑した。

「長官、彼の国の文明は我らと大して変わりがないのであろうーー?なぜこのような貧弱な武装なのだ……?」


「はぁ、自分にもよく分かりかねますがニホンは憲法で戦争を禁ずると明記しているようでその一環によるものかと………」

戦争を禁ずるーーとはどういうことなのかーー?

国家とはその生存のために戦争を発動するのであって、侵略と罵られようと国家としては正当な行為だーー。

ゼネウスにはその真意を理解できなかったが続けさせる。

「陸軍はおよそ10万名規模、それも外征能力を持たない貧弱な状態であるようでその任務は治安維持が主任務のようであります。空は輸送機や哨戒機といった大型機は保有しているようですが予算不足から戦闘機は保有していないようですな」


ニホンはその経済規模には目を見張るものではあるが、総合的な国力から換算するとやはり下しやすい国と言えるのではないだろうかーー?

いずれにしてもニホンが軍拡を開始してしまえば相当な実力を備えてしまう。

今のうちに叩いてしまうのが得だろうーー。


この点、ゼネウスらはニホン本土侵攻も視野に入れていた。

だが情報部の調査によれば連中の国土は山がちで何の資源も持たないということが明らかになっているので旨味は少ないだろうーー。

そこで考案されたのがニホン本土を無差別爆撃や艦砲射撃で焼き払い、連中の戦意を打ち砕き無条件降伏させるのが現実的ーーというものだ。

また、島国であるということから海上封鎖で干上がらせるというのも有効的な手段だろうーー。

実際、開戦時にはサドレア亜大陸侵攻と同時に艦隊や潜水艦部隊を差し向け、海上封鎖に出るべく計画されていた。


「開戦日は6月2日とのことであるがーー」

外務大臣がサミュエルを見据えた。

「開戦口実についてもお教え願いたい。戦争の大義名分こそ支持を取り付ける上で最も重要であるからな」

戦争となれば敵国の悪逆非道さ、そして自国への同情の目を向けられなければならない。それを懸念しての発言だった。

「そうですなーー」

サミュエルが言った。

「2日後、全ては始まるでしょうな。陸と……そして海の上でーー」


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― 新着の感想 ―
> 「エイザ-リョール」を警備する内務省国家憲兵隊 内務省国家憲兵隊の設定とか気になりますね。植民地警察や総督親衛隊と業務上対立していそうですし、新世界地図ではミレリヤは陸海空の三軍で構成されてるの…
共和制国家なのに国号は帝国なんですね……
>>https://www.nids.mod.go.jp/publication/briefing/pdf/2006/200612.pdf イラク戦争と情報操作 サミュエル元帥を含む帝国派はこの防衛…
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