13:上陸作戦
注釈をつけるのを忘れてましたが亜大陸の表現をやめてサドレア大陸にします。
理由は個人的に違和感を覚えたのと、ユーラシア大陸に属する中国を中国大陸と表記したりするからです。
今週は色々忙しいので次話はちょうど1週間後を予定しています。
同日6月1日午前9時40分 ミレリヤ帝国 総統官邸
前線の苦境を知らぬままミレリヤの国家元首たるゼネウスは長年連れ添っている夫人と共に朝食後のモーニングティーを嗜んでいた。
総統官邸付きの音楽隊が心地よく爽やかな朝に相応しい音色を奏でていた。
正午からは帝国議会の臨時会の開催が予定されており、対日戦の通達と威厳に満ち溢れた演説を持ってゼネウスの支持は圧倒的なものとなるだろうーー。
そうほくそ笑んでいたとき、来客の存在に気がつかない夫に夫人が声をかけた。
「あなた、サミュエル元帥がいらっしゃっていますよ」
ゼネウスが背後を振り返った時、軍務大臣のサミュエルは普段通りの軍服を着こなし直立不動の状態であったがよく目を凝らせば顔面は蒼白でここまで駆けつけてきたのか汗が滲んでいる。
「おぉサミュエルよ。そんなに顔を青くしてどうした?まさか軍務省が燃えたのか?」
冗談を言うゼネウスだったがサミュエルはそれを遮った。
「総統閣下、お人払いを……」
やがて二人だけとなった大部屋。
サミュエルが何事かを囁いた後ゼネウスの顔は人形の如く色を失い、力無く座り込んだ。
時計の秒針が一周しようとした時、いくらか血色を取り戻したゼネウスは怒鳴った。
「なぜニホン軍に先手を打たれておるのだ!?開戦のお膳立てをしておきながらこの有様とは……!」
平謝りに謝るサミュエル。
そしてゼネウスは呻いた。
「連中の文明度は我らとそう変わらんのだろう?大丈夫なのか?」
「もちろんであります総統閣下。蛮族の文明度がいかに我らに匹敵しようと精鋭なる我が軍は必ずやこれを駆逐するでしょう……!」
その言葉に虚勢が含まれているのを、放心状態のゼネウスが察する余裕はもう無かったーー。
直後、ゼネウスらは国境会戦で地上軍が敗走したことを知るのであった。
時を同じくして何処からか漏れた情報は大手新聞社の号外という最悪の形で民衆に伝わったのだーー。
ーーー
午前11時30分 サドレア大陸南部海岸線アナドリア海岸
国境会戦が終結した頃、平時なら戦からは無縁であっただろう広大な海岸線の沖合の光景は壮観であった。
海上には輸送艦「おおすみ」型を筆頭に大小10隻近い揚陸艦艇からは上陸舟艇が現れ、作戦開始の号令を待っている。
その脇には護衛とは別の護衛艦5隻が上陸前の梅雨払いとして艦砲射撃を実施していた。
呉、佐世保、那覇から出港した揚陸部隊は開戦直前に発足したばかりの水陸機動団4000名を搭載し、一路西進。
彼らは戦争の趨勢を決めるであろう第二戦線だ。
後続の輸送船団に乗り込んでいる第8師団と共に敵主力を分断させ来たる決戦に向けて北上していくのが、彼らの過酷な務めであった。
第8師団を安全に迎え入れるためにも、橋頭堡を確保しなければならない水陸機動団の役目は重大だ。
だがその前に目の前に展開している一個大隊相当の敵軍を排除しなければならないーー。
「目標、地点21-42、弾数8。撃ちぃ方始めーーっ!」
支援部隊の一隻、「しまかぜ」は127ミリ速射砲を2基搭載しているが故に優先的に上陸部隊へ配備されていた。
僚艦の「まきなみ」がトマホークを発射する傍ら「しまかぜ」、一番艦の「はたかぜ」、「しらね」は砲身が焼き切れそうな勢いで砲撃を続けている。
断続的に海岸線に黒い花が咲き続ける中、揚陸指揮艦として組み込まれていた掃海母艦「ぶんご」より「上陸開始」の号令がついに下ったーー。
けたたましいモーターの駆動音が響く中、上陸舟艇に搭乗する水陸機動団の隊員たちは波飛沫に耐えながら各々の装備を確かめていた。
ただでさえ狭い舟艇に定員を上回る屈強な隊員たちが詰め込まれ、「奴隷船」と口さがない者はあだ名している。
「何で鉄帽の紐を緩めてるんだ?」
「爆風に吹っ飛ばされた時、頭が持っていかれないようにね……」
軽口を叩き合う隊員たちをヘリのダウンウォッシュが襲った。
それは上空支援についているAH-64Dだった。
旧式化し退役しつつあるAH-1Sの後継として導入されたものの価格の高騰やその他の問題から10機を僅かに上回る程度の機数しかない虎の子のアパッチを動員するほど、今回の上陸作戦への意気込みが分かるというものだーー。
急造型ーーいわゆる戦時量産型の上陸舟艇の他、徴用漁船、そして輸送艇一号型が主に接岸する手筈で、これに戦車などの重装備を搭載したエアクッション艇も特徴的な轟音を響かせながら海岸線に迫っていた。
そしてアナドリア海岸に殺到する上陸舟艇が間も無く接岸しようとした時だった。
「伏せろ!伏せろ!」
正面の砂浜から少し離れた林より弾幕が放たれ始めた。
対戦車砲もあるのか時折、海面に水柱が立つーー。
『戦闘上陸大隊より司令部!砲撃支援を要請、正面の林から敵の反撃を受けている。座標は次の通りーー』
十秒も経たぬ間に沖合の護衛艦群の射撃が彼らへの返答となって着弾し始めた。
そして沈黙する敵陣地ーー。
元々、事前攻撃で戦闘力を喪失していたのかミレリヤの反撃は微々たるものだった。
やがて砂浜に上陸舟艇が乗り上げた時、甲高い警笛と共に分隊指揮官は怒鳴った。
「上陸開始!さっさと降りろ間抜けども!」
古参兵たちにどやされながら飛び出した隊員たちは妨害のため設置したのか僅かばかしの障害物に身を隠した。
同時に接岸した水陸両用装甲車AAV7の群れーー。
それらを導くようにエアクッション艇から90式戦車が飛び出し、普通科部隊の盾となって発砲を始める。
散発的な敵の反撃を120ミリ滑腔砲は瞬く間に敵を粉砕し、そして続々と新たな隊員と装備が揚陸され始めていた。
午後12時30分、陸上自衛隊はサドレア大陸南部に第二戦線を構築ーー。
自衛隊主力部隊の猛攻に苦慮するミレリヤ軍は新たなる脅威に頭を抱えたのだったー
「アナドリア海岸にニホン軍が上陸しただとぉーーっ!?」
ケンドラン方面軍総司令官のアルヴィス大将は額に筋を走らせながら萎縮する通信士官に怒鳴った。
「上陸部隊は少なく見積もっても1個旅団とのこと。海軍が敵艦隊を排除しない限り、連中は望むままに新たな兵力を南部方面から送り込むことができますーー」
参謀長のロディアス中将が呻くように囁いたのをアルヴィスは睨みつけた。
「そんなことは分かっておる!」
その言葉に八つ当たりが混じっているのをロディアスは感じたが、言い返す余裕は最早彼からも失われていた。
ニホン軍の第二戦線が形成された結果、再度の会戦を望む方面軍としては南に戦力を割かねばならなくなる。
放置することも可能ではあるが、そのままだと上陸部隊は主力部隊と連携しミレリヤ軍を挟撃するか、それともケンドランに向けて進軍という最悪の結末も考えられた。
現状、ケンドラン方面軍は敗走した四個師団に加えて、本国からの増援で四個師団の兵力が存在する。
更に2個旅団が予備部隊として待機しているが、これは国境を接するディトランド連邦への備えだった。
ディトランドの不成者どもは方面軍が東方に戦力を割いているため、これ幸いとばかりに国境部に兵力を増強させ続けている。
「敗走した四個師団のうち比較的健在な第25師団、第34師団はそのままとし、損耗した第29、31師団は1個師団として再編しアナドリア方面に充てるしかあるまい……」
賢明な判断だと言えるだろう。
第29師団、第31師団は第7師団の猛攻と航空自衛隊の度重なる空襲で師団としての形を保っていなかった。
特に第29師団に至っては師団司令部にクラスター爆弾が直撃したことで師団長のレヴァ少将以下大勢幕僚たちが戦死していた。
戦況表示板盤を凝視したアルヴィスはハッと何かに気づいた表情をし、一点を見つめた。
「作戦を通達する。六個師団はサドレア中部ノダ-ヴィアまで転進。空軍の支援と共に行われた包囲殲滅によってニホン軍を撃滅する……!」
2018年頃の自衛隊が大規模な上陸作戦を行えるのかと考えましたが、民間の大型フェリーなどを徴用すれば十分可能だと判断しました。
徴用漁船という表記がありましたがこれはスクラップ予定だった年代物の漁船を格安で買い取ったという感じの具合です。




