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新世界戦記  作者: アルビオン
第一章
1/31

1:プロローグ

新世界歴7年4月1日 日本国 東京


未だ残る冬の残照を感じさせながらも都内各地で訪れ始めた春の息吹ーー。

大通りに沿って植えられた桜の木々たちはそれを示すかの如く淡いピンク色の花々を咲かせ始めていた。

その中を黒塗りの乗用車が警察車輌の警護を受けながら走行している。

だが東京都内、それも国会議事堂や首相官邸が存在する永田町では有りふれた光景だった。

何気ない日常の一コマーー。

そのような”有りふれた世界“と捉えることができるまで日本は元に戻っていたーー。


『ーー続いてのニュースです。政府関係者によりますと沖縄西方のオルジニア大陸に接続するサドレア亜大陸を正式に領有するとのことです。同地域は領有権の存在しないーー』

不快な振動を感じさせない、滑らかな走行をするセンチュリーの車内に備え付けられたモニターから響くアナウンサーの声。


全ては7年前の7月7日、七夕の日に起こった。

時計の秒針が新たな1日となる7月7日となった瞬間、日本全土の夜空に閃光が走った。

そして生まれたのは諸外国との通信の断絶と食糧、原油などの資源不足ーー。

周囲の確認をすべく送り込んだ哨戒機や偵察機が目撃したのは未知なる大陸と国家。

平時の、対応の遅さとはどこ吹く風といった素早い動きで日本は資源国家群と友好関係を締結したことで日本は「あらゆる飢え」を耐えた。


そこから7年、”異世界転移“という超常現象により生まれた動乱に巻き込まれながらも、日本は低下した国力を着々と回復させた。そして今では転移前の、下落気味だった国力はV字回復を遂げていた。


日本は大きく変わったーー。

それも良い方向にだーー。

では、自分はどうかーー?


車寄せに停車したセンチュリーのドアが開かれる。

「総理、どうぞ」

「あぁ。ありがとう」

SPに礼を告げ、男は地上に降り立った。

目の前にはガラス張りのエントランスと、自身を待ち構える記者たち。


大河内 義一、それが男の名だった。



ーーー

午前10時20分 東京 首相官邸


少々の執務をこなしたのちに大河内が向かった先は重要な会議が開かれることを前提で設計された会議室だった。

重厚な扉を開けると目前には既に着座していた閣僚たちが迎える。

「遅参してすまない。思いの外サインするのが多くてな……」

「なに、我々も来たばかりです。お構いなく」

そう返したのは城山 正 官房長官だ。

大河内が首相拝命以前の若手時代からの盟友ーー。

総理の女房役としてこれまで順調に官房長官としての役目を果たしていた。

「さて、議題は諸君らの気になっているサドレア亜大陸だが、関係省庁の調査からやはり同地域を支配する国家は存在しないことを確認した」

大河内がそう言い切った瞬間、安堵に似た喜びが閣僚たちを覆った。

これで開発による景気が舞い込むだけでなく自分たちの懐も温かくなるというわけだ……。


そもそもサドレア亜大陸はオルジニア大陸から飛び出るように存在する亜大陸だ。

同盟国たるアルビオン王国に接続したサドレアを支配する国はどこも無く、アルビオンとしては国土が広大すぎては困るという理由から渡りに船だった。

大規模農業に適した平原地帯が広がる他に、亜大陸沿岸の岩礁地帯には大規模なレアアースが眠っていることが判明している。

特にレアアースについては採掘船が派遣され、試験的に採掘事業が開始されている。

これで不足気味になっていた供給を大幅に満たすことができることに官民問わず、意気込んでいる。

更にはサドレア亜大陸とアルビオンが接続する国境部付近には技術者や研究員護衛の名目で自衛隊部隊が駐留していた


「確か今週から奥地探索が行われるとかーー?」

「えぇ。明日より自衛隊の派遣部隊が中心となって未確認地帯まで進出しますな」

そう言ったのは防衛大臣の橘川 謙三だ。

先ほど彼は統合幕僚長より最終確認の旨を受けていた所だ。

「そうか……」

「総理ーー?」

閣僚の一人が大河内の呟きに問い返す。

「いや、良からぬものが見つからなければいいなーーと思っただけだ……」

宙を仰ぎながら言った一言。

だがそれが現実のものになるとはこの場の誰もがまだ知る由もなかった。


ーーー

翌日 4月2日 午前9時00分サドレア亜大陸 日本開発区域 サドレア自衛隊基地



東西南北に広大なサドレアの地ではあったが自衛隊基地が存在する位置は内地とあまり変わりない。

仄かな陽光が差し込む中、陸上自衛隊用に設けられた駐屯地の練兵場では百名規模の隊員たちが車輌と共に整列していた。


ここサドレア自衛隊基地は開発区域警備、そして邦人保護のために本土部隊より抽出した陸自部隊、上空監視用に設置された飛行場を拠点に活動する空自部隊があった。

現段階においてサドレア亜大陸の日本が周辺国の賛同を経て設置された開発区域に港湾施設が建設中であることから輸送船舶は隣国のアルビオンの港湾を使用せねばならず、海上自衛隊の輸送艦も同様であったことからここは一つの課題だろう。


整列し、探索部隊の指揮官の訓示に聞き入る隊員たちの傍らでは新型輸送機C-2や耐用年数が迫ったP-3Cを偵察機として改造させた機体が駐機している。

官民共用の2300mの滑走路が一本のみと寂しいものだったが、海外領土として正式に領有することを踏まえるとそう遠くない未来に増強が行われるだろうーー。


「ーーーのように民間の研究員の方々も今次探索活動に参加される。一同精強を自負する自衛官として失礼の無いように振る舞え!」

探索部隊指揮官 大森三佐の訓示は続いている。

整列する隊員の一角、凛々しい顔つきいえどその若々しい風貌から新米士官であることを隠せない青年の姿があった。


第8師団サドレア派遣部隊 特別探索隊隷下第3小隊指揮官 菅原 和人 三等陸尉。

経歴は異色極まりなかった。

エリートを輩出する国内有数の名門大学の国際政治学部出身で将来を有望視されている中、幹部候補生学校に入校し主席で卒業。

そんな青年、和人だったが四年もの大学生活でどっぷりと浸かってきた娑婆気分から抜け切れるはずものなく、部下の隊員たちからは陰より「お坊ちゃん」と呼ばれている(実際そうであったが)が和人はそれを知っていたし咎める気も無かった。


訓示が終わると同時に探索部隊の面々は傍で暖機運転させてあった高機動車や輸送トラックに乗り込んでいくが、特に目を惹く車輌ーー。

戦車を思わせる造形に砲塔より突き出る長大な銃口。

87式偵察警戒車、それが探索部隊最大の機甲火力だった。

開発区域外には良からぬ勢力だけで無く、凶暴かつ象の如く巨大な猛獣が闊歩している。そこでこいつの出番というわけだ……。


和人ら第3小隊の隊員たちは87式の側に停車してあった高機動車と73式中型トラックに乗り込み始めた。


探索部隊の主任務は開発区域外に進出し、国境策定に適正な地形を見つけることだ。

故に各分野における専門家も同乗し、測量にあたることとなっている。

出発の意が込められたラッパが鳴り響くと同時に車輌の群れは動き始めるのだった。


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― 新着の感想 ―
> 本土部隊より抽出した陸自部隊、上空監視用に設置された飛行場を拠点に活動する空自部 > 耐用年数が迫ったP-3Cを偵察機として改造させた機体 P-3Cを扱えるのは海自のみですから海自も部隊派遣され…
新しい国家転移系 今後の展開、 楽しみにしています
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