名前はまだ無かった方が良かったハムスター
夏
俺はハムスターである。名前はまだない。どこで生まれたかとんと見当がつかない。何でも薄暗いじめじめしたところで・・・
「愛忘鬼―!ただいまー、寂しかったでちゅかー」
「チュー!チュー――――!」
やめろ!その気色悪い猫なで声としゃべり方を今すぐ辞めろ!そういうのは疲れ切った美人OLしかやっちゃいけないんだよ!
お前みたいなブックオフから帰ってきただけのタプタプニートがやっていい代物じゃないんだよ!
「あーー!逃げたぁ。最近全然スリスリさせてくれない。ペットショップから連れ帰ったばっかりの時はさせてくたのにぃぃ」
スリスリさせて欲しければその脂ぎった肌とお腹を何とかしろ。後名前を変えろ!本当に!・・・俺も飼われる立場だ、お前が女という事に免じてそれ以外は勘弁してやる。だから、変えろー!
何だよアグニって!推し名前だかしらないが中二過ぎるだろ!そんな名前を付けらるこっちの身にもなってくれ。しかもなんだよ愛を忘れた鬼って。鬼にそもそも愛なんて無いだろ。
「なぐさめてぇぇ~アグニ~」
俺に逃げられた飼い主は推しに逃避し始めた。よだれを垂らしながら。
端から見たらどん引きだが、これでもマシな方でヒドイ時は推しの姉になって推しを翻弄するという妄想を一日中してる。
こいつはもう人間界では生きていけないかもしれない。
秋
そう思っていたが、なんと彼氏が出来たらしい。
推しの居るアニメのイベントだかで知り合い、意気投合したようだ。
毎日電話を一時間以上している。
・・・絶対騙されていると思うのだが。
そう思いながら二週間が経過した。
その間も毎日電話していた。本当に好き合っているのか?嫌そんなわけ無い。いや、待てデブ専か!彼氏の方はデブ専なのか!なら納得だ。
さらに二週間が経過しその間も毎日電話していた。だが、少しおかしい。飼い主のグッズがかなり減っている。フリマアプリ?といものに出しているらしい。それだけじゃない。付き合った当初は幸せそうに電話していたのに、ここ最近はすごく辛そうな顔をしながら電話をしている。今日も。
「も、もう・・・ッッ!そ!ちがッ!ッ・・・ご、ごめ」
三日後
最近はご飯も食べずに引きこもっている。前はご飯くらいは部屋から出たのに。
電話も掛かってきたら手を震わせながら取っている。そんなに嫌なら切れば良いのに。・・・
「も、もしもし・・・あ、あ、・・・キャッ!何!アグニ!?」
そんなに嫌なら切ってやる!どこだどこを触ればこれはなくなるんだ!
「もう、、、何してるの」
クソッ!!もう一回だ!って、これまで見たことないような顔で電話してる・・・
「・・・ッ!そんな事ない!うちの・・・私の家族を悪く言わないで下さい!」
そう言って飼い主は泣き崩れ、しばらくうずくまっていた。
「アグニ、なぐさめてくれてるの?や、くすぐったいよぉ」
冬
失恋をきっかけに一念発起し俺の飼い主はダイエットを始めた。というのは上辺上で、実際は新しく推しのゲームがダイエット系なだけだが。
「今日はもう3分もやったしこの辺で・・・痛ッ!何、アグニ、痛ッ!痛い!分かったよ!もう少しやるから!」
このゲームと俺のおかげで飼い主はかなり痩せていき春が訪れる頃には世間一般と比べても遜色ない、いやかなりマシになった。
というか、普通に美人だ。なんだこれ。なんか悔しい。
春
「行ってきまーす!」
飼い主は仕事を始めた。まだ始めたばかりで疲れた顔をして帰ってくるが、その顔はとても充実していて辛さはあまり見えない。良かった。
「ただいまーー!ちゅかれたよー!愛忘鬼―!」
三回だけだ。後二回その名前を呼んだら噛んでやる!