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冬月シバの事件簿  作者: 麻木香豆
自分に似た少年
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第三話

 瀧本はため息をついた。

「まぁ詐欺、そうなんだが」

 あまり口から出したくない言葉なのか口籠る。


「高校卒業をしたのはよかったが、大学生活で悪い輩と出会ってしまってな。そこから踏み外してしまって……」

「そうっすか。親たちは?」

「父親だけ出所したが消息不明だ。母親は牢屋のなかで手記を何冊か出している……まぁそれなり売れてるらしいが、そこまでは興味ないか」

 シバは頷いた。どちらかといえば父親の方が容姿端麗だったからそっちか本を書いてたりしたら、なんぞ思ったようだ。だがそれよりも。

「親なんてどうでもいい、康二が……」


 シバは後悔に苛まれる。いくつかの事件と出会ってきて一つ一つに感情を抱いてはいけない、と思っていたが一番自分と境遇の似ていた康二のことをもう少し気にかけていればと。


「よりによってネカマでネットの出会い系で男騙してホテルに呼び出して集団でボコボコにしてお金を巻き上げてたらしいんだ」

「うわ……」

「騙された方も出会い系絡みのことだし、写真も撮られてほとんどは泣き寝入りだったが、1人が声を上げた途端、被害者が一気に集まって……御用になったわけだ」

「うわー……スゲェな。でも康二はどうせ下っ端だろ」

 瀧本は首を横に振った。


「指示を全て出したのが康二だった。実行犯は手下にやらせて自分は手を出さない、巧妙なやり口で」


 シバはネットで検索してその事件の記事を見つけ出した。

 康二は19歳であったため名前は出ていなかった。ネット内では一時期騒動になっていたそうだ。すこしはシバは見たことがあったのだが


「これ、康二がやったのか。知らんかった」

 と驚く。もう警察の人間でもないから知らないのも仕方がない。


 ネットの住人たちを敵に回したのか、被害者たちが詐欺の巧妙なやり口、ルポなどを文章や漫画にしたり、掲示板で色々書かれていた。


 目の前で両親たちは詐欺をし、逮捕され、孤独を味わったが警察官を目指していた少年が両親たちと同じことをして捕まる。


「皮肉なもんだな。まぁきっと子供の頃母 親が目の前で人を欺いてたの見てたんだろうな」

 瀧本がそういうとシバは何かまだあると察した。

「その話だけじゃないでしょ、瀧本さん」

「あ、わかった?」

 少しとぼけた顔をする瀧本に対してシバはやっぱり! と。


「康二がお前に会いたいそうだ。子供の頃によく会ってくれたお節介な刑事さんに、って」

「おせっかいって。何よ今更……落ちぶれたフリーターのおっさんに会ってどうなるんだよアイツ」

 シバは頭をかいた。


「あの頃大人を全く信用できなかったけど唯一信用できたのがお前だったらしい」

「えっ」

「親も親戚も施設の人間も信用できず、お前が唯一自分にしっかり相手してくれた人間だったんだとよ」

「そうだったのか……」


 シバは思い返す。ずっと会ってても打ち解けられなかったが数年後にはゲーム通じてだったが心を開いてくれた康二のことを。


 きっと数年間はどう人を信じれば、接すれば、受けごたえすればわからなかったのであろう。

 シバの粘り強さがきっと彼を変えたのであろう。だがシバは勝手にもういいだろうとやめてしまったのだ。


「わかりやした、会いますよ」

 また2人が会うことによって康二がどう変わるかわからないが、きっと彼に取ってプラスになるだろう。


「おせっかいかぁ……」

 そこがどうしても気になるシバであった。

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