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冬月シバの事件簿  作者: 麻木香豆
花屋の女
32/47

第三十一話

 シバは菅生の務める製薬会社に向かう途中、ふと思い出す。


 これは先ほどの情報が来る数日前のとある夜、シバは駅裏の飲み屋街にひっそりあるバーに着いた。例の情報屋がいる。


 シバは入る。店内は思った以上に広く、数人ほど先にいて騒がしいがその方が都合が良い。


 カウンターには体格の良い髭の男が。この店のオーナーである。彼はあの情報屋の素性を知らながら働かせている。特になんとも思ってはいないらしいが……真相はいかに。彼はシバをジロっと見る。


「いつもので」

「あいよ」

 目の前にモヒートが置かれる。


「あいつはいるか」

「ああ、今は裏に行ってるが……」

 バックミュージックに流れる音楽を聴きながらモヒートを喉に流し込む。あまり好きでなかったがこの髭の男が作るモヒートは最高で気に入っているようだ。


 すると髭の男と入れ替わるかのように1人のバーテンダーが前に現れた。


「いらっしゃい」

「ああ」

 シバはタバコを取り出し、吸い始めた。


「最近本当に物騒ね」

 髭の体格のいい男とは対照的な美麗のバーテンダー。


「そうだな。で、例の件は調べてくれたか」

 バーテンダーは首を傾げた。彼の名はリヒト。男だがゲイで女言葉を使う。シバとは同い年で身長もさらっと高く仕草も女性のようだ。

 調理師免許もあり、彼の作るつまみも美味でシバはそれを楽しみにしてもいるのだ。


「とぼけるな……」

「?」

 リヒトは微笑む。指を自分の唇に撫で、ぺろっと舐めた。シバは頷いた。

「……後で、な。今夜は家に帰ろうとしたんだが」

「別に泊まれ、とは言ってないけど? って、彼女さんの元に帰ってないから溜まってる?」

 またリヒトは微笑む。シバもたばこの煙を吐き出した。


「るっさい、溜まってねぇよ」

「そうよねぇ、所々に自分の女作って……隙あればやってるんでしょ」

「ふん」

「不思議よね、どの女たちもあなたの性悪さ承知で関係持ってるんですもの」

「知るか。勝手に近付いて来て股開いてきたから突っ込んでやっただけだ」

「あらっ、最低」

「……」

 リヒトはジトっとシバを見る。シバも見つめ返す。


「でもそんな最低なところ、私は好き」

「アホか。他はないのか……ネタは上がってるんだろう」

「……まぁね」

「もったいぶるなよ」

 リヒトはスマートフォンを取り出し、とあるサイトをシバに見せた。


「こんなサイトを警察が野放しにしてるとは思ってはいないけどさ」

 シバはそのサイトを見入る。いわゆる闇サイトであった。

「すぐサイバー班に送る。こんなのまだあるんだな」

「潰しても潰しても出てくるわよ。警察も甘いわね。一般人の書き込みも多いからまあいずれかは漏れるかもしれないけど殺人願望マッチングサイトっていう感じ」

「……実行はされているのか?」

「実名を書いてそいつを消してほしいとかのもいるけど、大体は殺したい人がいると書き込むと殺害欲求のある人が返信してそこから個人のやり取り。お金をふんだくっておしまいとか、実際に会って性的暴行されて実名を書いたもんだから書き込んだことをバラされて欲しくなければお金払えとか、黙れとか……」


 シバは頭を抱えた。そんな恐ろしいことはどんなに見つけて潰しても繰り返されていく。

 検挙してもキリがない。家族や会社にばれたくないと泣き寝入りする者もいる。


「掲示板の中にもしかしたら爆弾騒ぎの怪我人と一致する名前があるかもね、まぁ大抵は直接書き込みはないだろうけども……もしかしたら……ね」

「……なるほど」

 するとリヒトがシバの目の前の机を叩く。


「な、なんだよ」

 リヒトはニコッと笑った。


「分かったよ……分かってるけどさ」

「ふふふ」

 シバはもう一杯、出された焼酎割りを喉に流し込んだ。

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