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冬月シバの事件簿  作者: 麻木香豆
自分に似た少年
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第二話

 これはかなりだいぶ前のこと。


 とある豪邸に住む夫婦が詐欺容疑で逮捕された。

 被害金額は億単位、被害者の中には多額の金額を騙し取られて悲観し一家心中したものもいる。

 当時では最悪な詐欺事件と言われている。自宅は騙し取ったお金で建てた高級住宅。別荘もある。パトカーの音で閑静な住宅街も野次馬やテレビ局などの取材カラーが多く集まり、大変な騒ぎになった。


 首謀者は妻である万里絵。元は貧しい家庭の育ちだったが口だけはうまかった。

 夫の隆司も頭が良く、それなりのイケメンだったのだが年上である妻にこき使われその鬱憤も積み重なって大喧嘩し、そんな隆司はほとんど愛人の家に入り浸っていたが、ちょうど家に戻ってきたとこをシバたち警察が乗り込んだのであった。


 万里絵は入ってきた警察たちに抵抗もせず素直に自首をした。隆司はごねていたが一緒に住んでいた母親に説得され御用となった。


 万里絵をパトカーに入れる際に

「息子は……」

 と、家を振り返る。この夫婦に1人の子供がいた。窓辺から見える小さな瞳。こっちをみている。この状況を理解できないだろう。だがきっといつかはわかるだろう、今日の日のことを。


 シバもそうだった。彼の兄は父親に暴力を振られ、目の前で母親も暴力を受けていた。


 母親がマンションから飛び降りたことで発覚したのだが、シバはまだ2歳でほぼ記憶に無いが大人たちがたくさんやってきたのを覚えている。


 そして兄弟で児童施設に預けられ、小学生の時に父親が逮捕されたことを知った。

 間も無くして里親に引き取られたシバ兄弟。シバは親の記憶がないから里親のことをこれが親なのかと認識した。


 でもやはり血の繋がりがないことも成長につれてわかってくる。反抗期はすごくひどく荒れたのに里親たちはそんなシバを大きく包み込み、暖かく見守ってくれた。


 あの窓辺にいる男の子は今後どう育っていくのだろうか。一つ一つの事件に感情を持ってはいけないと瀧本に言われたシバだったものの気になって仕方なかった。




 それでもシバはたびたび会いに行った。康二は親戚の間をたらい回しにされて最後には児童養護施設に引き取られた。自分に似ている。


 なかなか心が開くことができない康二。シバはそれなのに顔を出す、懲りないよなと。だって自分に似たような子だったから……と。


 ようやく康二と距離が縮まったのは世間で流行っているゲームであった。彼は中学生になって里親に引き取られてスマホを持つことになった。

 高校の頃にはパソコンを買ってもらったという。もともと子供のできなかった里親たちの元に育てられたのだ。そこも似ている。


 彼がゲームをしていることを知ったシバは、あまりゲームをしないものだがゲームに詳しい彼の愛人にレクチャーしてもらい、康二に自分もやっていると伝えると食いついてきたのだ。今まで何やっても素っ気なかったのだが。単純だったなぁと参ったシバ。


 でもやはりシバはゲームが苦手でなかなかうまくいかない。子供の頃は全くゲームをやっていなかったからである。

 そしてそのゲームで一番重要なアイテムである銀の実が手に入らない。

 これを使うと多くの敵が倒せる、というものらしいが。

「それならもってるからあげる、友達からもらったから」

 康二は初めてシバの目をしっかりみて笑いながら言った。

 そして

「僕、警察官になりたいんだけどどうすればいい?」

 とシバは相談される。シバはその当時、警察を辞めたばかりで聞かれてもなぁ、と苦笑いしながらも


「まぁ色々あるけど覚悟しろよ」

「わかってる」

 康二が自分の親を逮捕した警察官になるとは、とシバは思う。そしてもうそろそろ会わなくても大丈夫だろう。


 シバは家に帰ってスマホからゲームのアイコンを消した。


 あれから数年後の今……もっと話していれば、とシバは後悔している。


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