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第十一話

 そこまでシバが徹底したのにも訳がある。


 それは前の話。とあるゴルフ場のオフィスにてスタッフ数名が倒れたという通報があり、警察も救急車も駆けつけた。

 山の上にあるクラブハウス、山道でシバは車酔いをしそうになった。前日に裏の公務員社交パーティーという名の会でお酒を飲みあんなことやそんなことをしたばかりでもあったからでもある。

「珍しく二日酔いかよ……」

 ネクタイを緩めつつも小さな爽やか吐息がキャッチフレーズのタブレットを舐めて何とか持ち堪えた。

 運転手の帆奈は呆れた顔をしている。昨晩は自分のところにこなかった=別の女のところにいる、それをわかっていたからである。


 ゴルフ場のクラブハウスの事務スタッフ、営業マンなど男女8人が腹痛や吐き気を起こし、そのうち中年の女性スタッフが気管支を炎症し、病院でのちに亡くなる事件であった。


「お客様の受付が終わり、ひと段落した後の10時の休憩でコーヒーをスタッフに配るのですが、わたしは飲む前に匂いで気づいて休憩室からでたら……数人吐いたりむせたり……」


 そう帆奈に話したのは女性受付スタッフの苅間だった。まだ20代前半でそれまで喫茶店で働いていたこともあり珈琲の匂いに精通していたため異常にすぐ気づいたようだ。


「コーヒーはひとりひとりついで飲むの? それともまとめて用意するの?」


 帆奈が苅間に聞くと


「受付スタッフの中から1人がコーヒーを用意して、できたら数人で運ぶんです」


 周りを見渡してもコーヒーメーカーは無く、自動販売機もあるが有料である。給湯室にはコーヒーセットが用意してある。


「どうやら混入してたのはこの水道の洗剤のようです、シバさん」


 茜部が鑑識から得た情報である。普通の市販の流通している食器用洗剤、シトラスの香り。シバは苅間を見ると


「わ、わたしは運んだだけです! 作ったのは……今井さん……あれ、今井さんは?」

 と周りを見渡す。


「今井さん?」

「わたしと同じ受付スタッフの今井さんです。ボーイッシュな感じで……」

「おい、救急車で運ばれた人のリストは!」

 シバは他の捜査員に声をかける。救急車の音。ゴルフ場は山上にあり、一度に駆けつけれる救急車も限りがある。


 また一台救急車で誰か運ばれる。


「あ、あの人です。今井さん!」


 苅間が指をさして叫んだ。救急車に乗り込む前まではしんどそうな顔をしていた彼女がその声に反応して走ってゴルフ場のスタッフ用のスクーターに乗り込みコース内に逃げていった。


「おい! あのスクーターの女を追いかけろ!!」


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