帰宅直後
仕事を終えて家に帰ると、まず飼っている文鳥の様子を見る。今年は暑いので、エアコンをつけており、電気代節約のためにもリビングの扉は閉めたまま仕事に行く。扉を開けると、夜にも関わらず、私の姿を見てはしゃぐ姿を見ると、仕事の疲れも吹き飛ぶというものだ。なのに……
「ん?」
家に帰ると、玄関から廊下、廊下からリビングまで一直線の為、まず思ったのは、涼しいという事。そして、電気を点けて目に入ったのは、リビングの扉が開いている。
「閉め忘れたか」
しまったと思いながら、部屋に入り、電気を点けると。
「……え」
いつも帰宅を喜んでくれる文鳥は、鳥かごのケージ、柵の間に首が挟まり、ぶらりと力なく垂れ下がっていた。
「お、おい!」
すぐに助けるが、もうかなり時間がたっているのか、すでに息は無い。
「なんで、なんでこんな……!」
あまりのショックに膝をつく。どうして無理やり籠から出ようとしたんだ? そのせいでこんな事故が起きるなんて……
「……違う」
出ようとしたんじゃない。籠の歪みが目に入る。そこは文鳥の頭が挟まっていたところで、頭部を閉めるように形が歪んでいた。こんなこと、誰かがわざとしない限り起こらない。つまり……誰かに、殺されたんだ。
「いったい誰が……泥棒か!?」
そうか、リビングの扉が開いていたのはそういうことなんだ。すぐに警察に相談に行く為、廊下に出ると。
「?」
突然、廊下の電気が消える。夜の為真っ暗で前が見えない。
「あ、あれ?」
壁のスイッチを押すも、反応はない。ブレーカーが落ちたのかと、そのまま廊下を進み、脱衣所の上を見る。だが、問題ない。
「もしかしたら、まだいるのか?」
急に怖くなってきて、家から出ようと廊下を進む。玄関に到達し、出ようとするが。
「な、なんで開かないんだよ!?」
と、背後から物音。振り返ると、途中までしか開いてなかった扉が全開になっていた。そして、なぜかリビングだけ電気が点いており、正面のカーテンレールには、首を吊った人の姿があった。
「う、うああああああ!?」
腰を抜かし、玄関を開けようとするが、開かない。首を吊った人はゆらゆらと揺れ、やがてこちらを見て。
「!」
うつむいたまま、こちらに手を伸ばした途端、首に何か巻き付き、そのまま……
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「……あ?」
気が付くと、私は玄関で倒れていた。リビングの扉は開いており、正面のカーテンレールには何もいない。
「夢……あっ!」
急いでリビングに向かうと……文鳥は、元気に私を見てはしゃぎだす。
「よ、よかった……!」
安堵から涙が出てくる。どうして玄関で寝ていたのかはわからないけど……無事でよかった。
「……あ、もうこんな時間かよ!?」
もう仕事に行かなくては。急いで準備をして、家を出る。だが、今度は振り返り、リビングの扉が閉まっていることを確認する。
「よし」
家を出て、昨日の夢の事を職場の同僚に話す。同僚は笑ってよかったじゃんと言うだけで、ただの夢としか思っていなかった。もちろん、私もそうで、その日の夜、仕事終わりにはほとんど忘れていた。
「ただいま」
家に帰り、違和感に気付く。涼しい。はっと廊下の奥を見ると……
「どう、して……」
リビングの扉が、開いていた。
完