好きな子にはイジワルしたくなるよね
「おし、これで九体目!」
没頭し過ぎて気付けば夕日が沈みかけていた。あれからスネアスネーク九匹と合間にゴブリンやスライム系の雑魚を数匹倒してレベル8に到達した。
そしてこれだけ戦えば敵の行動パターンも読めてくるもんだ。基本的に噛みつきか尻尾の薙ぎ払い、成体に限っては毒霧噴射や締め付けなどの特殊攻撃も絡ませてくる。
ただ予備動作さえ見切ってしまえば恐るるに足らない相手だ。成体にはでかい奴もいたが、その分持ち前の機敏さと的の小ささが消えて幼体よりもやりやすかった。
「素材~素材~」
散りばめられたスネアスネークの素材を余すことなく丁寧に回収する。やっぱ素材回収が一番楽しいよなぁ!
どれどれ…………ふむふむ………………はいはい…………………
青紫の万鱗
青紫の万鱗
青紫の万鱗
一糸乱れぬその並びはまさに芸術。鱗のドロップ率は驚異の八割超えを叩き出していた。
前言撤回、レア素材が落ちなきゃ何も楽しくねえんだよクソが。
ただまぁ九体分の素材ともなるとだいたいはコンプしたのではなかろうか。鱗に堅殻、粘泡袋や蒸毒袋なんかもゲットした。しかし蛇型モンスターの象徴とも言えるあの部位が見当たらない。
「………………牙がないな」
これだけ倒してたまたま手に入らないなんてことあるだろうか。どこの世界線でも蛇と言ったら毒と噛みつき、素材で言ったら毒袋と牙。そして考えられる可能性としては部位破壊しないと得られないパターン。
「まぁ………またの機会に取っておくか。」
まだまだゲーム初日。牙をとれる機会なんかこの先腐るほどあるだろう。何なら防具を揃えてからのほうが確実だしな。今は残りの一匹を倒すことが優先する。
「この辺は狩り尽くしちまったか………………」
しばらく周辺を散策したがスネアスネークどころか一匹のモンスターすら見つからない。不気味な雰囲気に包まれた森を更に進むと、その原因はすぐに分かった。
「嘘だろ………………………このサイズのモンスターがいんのかよ」
森を真っ二つに横断する荒々しい痕跡。そこだけ木々が根こそぎ倒され、地面が抉れていた。幅にして約五メートル。跡からして歩行ではなく這って移動している。そして俺が知っている中で足が存在しないモンスターは一種類しかいない。でもこんなサイズ有り得るのか………
痕跡に沿って跡の主を追う。ユグドラを始めて以来初めての強敵を前に防具なしの破損寸前の短剣とコンディションは最悪。ただ気分は最高だ。
「ふふふ…………………お昼寝中ってか」
痕跡は一本の木の前で途切れていた。周囲は更地になっているにも関わらず堂々と聳え立つ一本の大樹。その樹冠の裏に何が隠れているのか、もう見なくとも分かるだろう。
俺は足元に転がっていた小石を一つ拾い上げる。生憎と俺は睡眠中の子にイジワルするのが大好きな変態なんだよ。
「それっ」
小石を大樹に向かって軽く投げる。小石は葉の間を縫って地面に落下。何の反応もないので二投目に移ろうとしたその時だった。
ザザザザ…………………
樹芯の枝葉が不気味に揺れる。
ギギギギギギ………………………
中央の木の枝が大きく音を立てながら軋み始める。
「………………………………」
目を見開いたまま生唾をゴクリと飲み込む。ようやくベットから起きたが頗る機嫌が悪いようで、小刻みに喉を振動させて此方を威嚇している。見切り発車でここまで来たが、いざ目の前にすると想像以上の威圧感を放っていた。
枝葉の影から顔をのぞかせたのは二股の細長い舌。葉に隠されていた全貌がゆっくりと明かされる。
「何だあの個体……………」
姿を現すは長老級のスネアスネーク。その全長は軽く見積もっても十メートルは下らない。そして何より目を引くのはその純白に照り輝く無数の鱗。今までの紫の個体とは明らかに異なる異彩を放っている。俺の嗅覚が過剰に反応する………これは稀少種、つまりレア個体の可能性大!
「死んでも負けられねぇな!」
摩擦で磨り減った短剣を片手に最短距離で詰める。予備動作も各攻撃の間合いも完璧に掴めてる。
「色が変わったくらいで勝てると思うな………よっ!」
初手の噛みつきを跳躍で回避しつつ背筋に落下攻撃を仕掛ける………が、短剣を握る手には煮え切らない感触。
「あれ……以外と柔らかいな」
カチカチだろうと踏んで弾かれることも覚悟で放った突きは見事背中を穿つ。まるで弾力のある筋肉のようだ。
「出オチとは拍子抜けだな!」
思いの外戦えてるじゃん!ここからは俺のターン、プロゲーマーの底力見せてやるぜ!