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ユグドラシル~初日に世界を終わらせた男~  作者: 猪突
淵源を知る時
6/16

くまさんと愉快な仲間達と爬虫類

天気は晴天。巨大な入道雲が上空へと立ち上ぼり、まるで天界への階段のように続いている。森中に響き渡る木々のさざめきと小鳥の囀りはまるで自然界のロミオとジュリエット。木漏れ日はステージを照らすスポットライトと言ったところだろうか。そしてそんな大舞台を最前列の特等席で聞く半裸の変態。白いブリーフの正面にプリントされた一匹のくまさんは自己主張が激しいようでパツパツに引き伸ばされても尚、笑顔を崩さなかった。


「運営のやろう………変なところで遊びやがって」


心の中で親会社への文句を垂れながら改めて突きつけられた現実に溜め息をつく。人としての尊厳を守るはずの最終ラインは思いの外薄かった。そしてその決壊寸前の防衛ラインを意気揚々とした表情で食い止めるは我等がブリーフ界の異端児、くまさんであった。

乙女の柔肌の如き白を纏ったキャンパスに突如として放り込まれたワンポイント。決して失敗は許されない状況に彼は……………………ただ笑っていた。その眼には一片の曇りもなく、ただ漠然と前だけを見据えていた。


俺は気が付くと彼から目を逸らしていた。目の前の現実を受け止めることがどうしても出来なかったのだ。それから俺は有りとあらゆる可能性を模索した。

背丈のある葉を織り混ぜて腰に巻いてみたり

泥を塗りたくることでくまさんごと隠そうとしてみたり

果てには破損時に新品に変わることに一縷の望みを託し、大木に腰を振り続けたりもした。

しかしその全てが悉く失敗に終わった。


「万事休すか…………」


その場に横たわり天を仰ぐ。青空に漂う逆三角形の積乱雲がブリーフに見えてしまうほどには気が滅入ってしまった。そのまま何の気なしにステータス画面を開く。




腰:無し




自嘲気味に笑いが込み上げてくる。急がば回れとはまさにこの事。まさか急いだ結果パンイチになるなんて思わなかったが。そんなことを思いながら視線をスワイプさせる。


「衣服の初期設定変更…………」


そして偶然にもある項目を見つけた。装備欄の一番下に小さく記載された"それ"は見粉うこと無き一筋の希望そのものだった。


「よ、ようやく…………これで俺も…………」


絶望に差し込んだ射光を今掴もうとしている。

もう正直パンツでもいい、いいから最低無地であってくれ!














ーーーーーーーーーーーーーーーー


■パンツ(くま)


□パンツ(とら)


□パンツ(ごりら)


□パンツ(ぞう)


ーーーーーーーーーーーーーーーー



垂らされた希望の糸は一瞬にして千切れ、犍陀多の如く奈落の底へと叩き落とされる。用意されたパンツは詰みの四肢択一。まるでくまさんに絶望したプレイヤーを更に嬲るためだけに用意されたエクストラステージのようだ。


整然と並ぶ新進気鋭な精鋭達。どこぞの仮面ライダーを彷彿とさせる並びを上から順にスライドさせていく。


「う………………うぐっ………………ひぐぅ…………」


自然と目から涙が溢れだし、咽び泣く声を必死に堪えた。イラスト調の軽いタッチで模された可愛らしい見た目は完全なフェイク。その実、無知な初心者プレイヤーを食らうシリアルキラーである。


二番目の虎はくまと比べると動物としての貫禄がまだ残ってしまっているため可愛さに欠ける。くまは可愛さがあるため、まだネタとして理解されそうだが虎はもう好きでパンツ履いてる奴として見られてもおかしくない。


そして三番目のゴリラ。全然可愛くない。普通にパンツ愛好家。評価点は唯一バナナを持っていなかったことだけだろう。


そして問題作の四番目。先程のゴリラが可愛く見えるほどの醜悪っぷり。女性プレイヤーだけでなく同性プレイヤーでさえ関わりたくないと瞬時に判断するレベル。運営がなぜこれを許諾したのかすら分からない。


「………切り替えていくか」


過ぎたことは仕方がない。割りきれない気持ちを何とか抑え込み、目的を再確認する。


「確か、あのおじさんが言うにはここら辺だったはずだな……」


森は奥に行けば行くほど緑の密度が増していく。聞いたところによるとこのスネアスネークは非常に気性が荒く、自分より一回りも大きいモンスターですら補食するという。







ボトッ



「え」



それは突然だった。頭上から何かが落ちてくる。頭に乗ったそれは頭皮を這いつくばりながらゆっくりと正面に姿を現す。


「うぎゃあああああああ無理無理無理無理、爬虫類むりぃぃぃぃ」


スネアスネークの舌が俺の唇と重なる。異種間交遊が許されるのはケモ耳かエルフだけ。決してこんなどこぞの馬の骨かも蛇の骨かも分からん奴がファーストキスなんて認めないぞ


「どけぇぇぇ」


思いっきり頭を回転させてスネアスネークを振り落とす。そのヌメっとした感触がどうしてもだめでリアルでも爬虫類はNGだ。どこぞのファッキントカゲは二足歩行で何とか人間の様相を模していたためそういう類いの嫌悪感はなかったが、先の一件で爬虫類界の不動のエースとして飛び入り昇格を果たした。


「おらっ…………うげっ」


串刺しにしようと地面へと短剣を突き立てるが不規則な動きで避けられる。どうやら鱗から分泌された体液を身体中に纏わせているようでなかなか改心の一撃が与えられない。


「とりゃっ」


今度は奴から飛びかかってきたところを突き上げるようにして下顎の皮膚を貫通させる。胴体と違って丸みを帯びていない頭部は刃が通りやすかった。


「お、レベル上がった」


スネアスネークがポリゴンとなって爆散すると同時に記念すべき初レベルアップを達成する。今まで倒したモンスターはスナッチゲーター二匹とスネアスネーク一匹の計三匹。序盤の進みとしては順調ではないか。




STATUS 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

プレイヤーネーム:サカタク 

レベル:2

職業:なし

属性:なし


基本値

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

HP(体力):30


SP (スタミナ):30


MP(魔力):10



配分ポイント:20




能力値

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

STR(筋力):10


AGI(俊敏):10


CRI(会心):10


DEF(防御):10


RES(抵抗):10


LUC(運気):10



配分ポイント:10








「へぇ…………そういう感じか」


俺はてっきり基本値は自動的に上昇していき、能力値だけが自由に割り振りできるものだと考えていた。しかし基本値の割り振りもこちらでやるということは早い段階から武器種や職業について想定しておくべきだろう。


前衛職は当然HPとSPに振り分けてMPに回す必要はあまりない。逆も又然りというわけだ。ここは慎重にポイントを振り分けていく。



STATUS 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

プレイヤーネーム:サカタク 

レベル:2

職業:なし

属性:なし


基本値

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

HP(体力):30→50


SP (スタミナ):30


MP(魔力):10



配分ポイント:0




能力値

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

STR(筋力):10→15


AGI(俊敏):10→15


CRI(会心):10


DEF(防御):10


RES(抵抗):10


LUC(運気):10



配分ポイント:0





現段階の想定ではスタミナ重視の軽戦士。双剣使いにはこのビルドがベストだろう。ただ最低限のHPやSTRを揃えるのがまずは先決。特にSTRは防具や武器の重量による身体への負担の軽減率にも関係してくるためダメージと機動力の両方に反映する重要ステータスだ。能力値の優先順位はSTR>AGI>CRI>RES>LUC>DEFといったところだろうか。






「あと九匹、ちゃっちゃと終わらせるか!」


地面に散乱したスネアスネークの素材を回収しつつ、この先に待つ新武器に浮き足立つのだった。



スネアスネーク

幼体から亜成体、成体の三形態を持つ爬虫類モンスター。

形態ごとに有する体内器官が異なる。幼体は粘性のある液を分泌させる粘泡袋、成体は壊毒を分泌する蒸毒袋をそれぞれ持っている。亜成体はどちらも有していない変態期である。




青紫の万鱗(小)

スネアスネークの幼体の鱗。

鱗とも言うが厳密に言えば高質化した皮膚である。蛇には鱗の生え代わりなど無く、脱皮として鱗も新調される。スネアスネークの鱗には間欠口という小さな穴が存在し、そこから粘性のある体液を体外へ流している。


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