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ユグドラシル~初日に世界を終わらせた男~  作者: 猪突
淵源を知る時
15/16

目から鱗、但し爬虫類に限る

サービス開始から現在に至るまで幾多の依頼が掲示板に張られ、報酬額や難易度、出現頻度など様々な要素を独自に評価した依頼Tier表なるものが作成されてきた。アップデートの度に津波の如く新たな依頼が押し寄せる中、あろうことか万古よりTierの最下層を支えてきた一つの依頼が存在した。


捜索範囲が一エリア全域という鬼畜ぶりにも関わらず得られる報酬額はたったの二桁。それに加えて依頼主は敬語を知らないクソガキときた。その頭も尻も全く隠すつもりのない害悪依頼は他の追随を寄せ付けぬ勢いでピラミッドを転げ落ちていった。

あるプレイヤーからは達成されることなく掲示板に居座り続けることから「ヒキ板」と揶揄され、またあるプレイヤーからは厄災の象徴として「訃報届」と罵られる始末。それがこの「坊ちゃんのワガママ」という到底我儘では済まされない依頼の一斑である。













「運営もやりおるのぉ」


探索開始から約二時間、この依頼のカラクリに気付くまで随分と時間を掛けてしまった。まあその間、木の実やら植物やらを乱獲できたので良しとしよう。


俺はこの依頼において一つの勘違いをしていた。いや、勘違いさせられていたという方が正しいだろう。この依頼の設計者も中々に性根が腐っている。捜索範囲を「神隠しの樹林」に指定することであくまでも"エリアの"探索であることを刷り込ませた。当然プレイヤー達は広大な樹林の中で見つかりもしないハンカチを一心不乱に探し回ったことだろう。


「サカタクさん、本当にあそこにあるんですか。」


俺の背後でじっとその時を待つ彼女、橘雫は俺に疑いの目を向ける。二時間捜し歩いた末に、在処が分かった!と言われて連れてこられたのがこんな森の入口では不信感を抱くのも無理はない。ただこの依頼を達成するには先入観を捨てなければならない。


「まあ見ていてください。俺たちは依頼を額面通りに受け取り過ぎたんです。俺の推測が正しければこの依頼の鍵は"どこを"探すかではなく……………"何を"探すかに着目できるかどうかにある。」


未だピンときていない彼女を諭すように続ける。


「つまりハンカチを探すのではなく、ハンカチの在処を探すんです。これは一見同じことのように聞こえますが似て非なるものと言えます。」


この樹林を隅から隅まで嘗め回した俺にしか分からないこと。それはこの森での落とし物、無くし物は全て一つのモンスターへと帰着するということ。


「静かに……………………………犯人は奴です。」


茂みに潜む俺たちに気づく素振りもなく、一匹のトカゲが地面の穴へと姿を消した。


「スナッチゲーターですか。」


俺は振り向くことなく頷いて見せる。一時は種族ごと根絶やしにしてやろうかと本気で思ったほどの害獣は、一晩で俺の救世主へと生まれ変わっていた。あの地面に空いた不自然な穴は恐らく巣穴だろう。奴は盗んだ物を自分の巣穴に溜め込んでいるはずだ。


「橘さん、何でもいいので投げ物持ってますか。」


「え、はい。火炎瓶ならいくつか持ってますけど。」


どんな場面を想定したら火炎瓶を常備することになるのかはこの際触れないでおこう。何よりこの場面に最適な一品であることに違いはない。


「ちょっと借りますよ………………………それっ!」


借りるとは言ったもののもちろん返す手立てはない。彼女から火炎瓶を受け取り、奴が入っていった穴に放り込む。


「袋のネズミだな…………まあトカゲだけど。」


上から覗き込んで確認する。若干火加減が強かったようで、蒸し焼きになったトカゲの断末魔が地上に漏れ出る。一人だったら脳汁を垂れ流しながらグヘグヘ言ってる頃だろうが、生憎今日は連れがいるためそこら辺は自重せねばなるまい。


ただ蟻塚に水を流し込んだ時のような高揚感はまるで少年時代を彷彿とさせる。因みに少年時代もゲームしかやってこなかった訳だが。そして背後より無言の圧を感じるが気のせいだろう。


「どれ、そろそろかな。」


顔に覆いかかる煙幕を払いのけ、穴の中に腕を突っ込む。まあ一発目でそう易々と見つかるとは思っていない。恐らくこの森には奴の巣穴が何百と犇めいているはずなので、これはまだ序章に過ぎない。ただクリアへの第一歩であることは間違いない筈だ。


「サカタクさん、それって……」


有象無象と化したスナッチゲーターの素材を掻き分けて、最奥に埋もれた布切れの一端を引っ張り上げる。


「幸運値さまさまだな!」


これ程幸運値があって良かったと歓喜したことはない。これで漸くSTRやAGI等の無念が晴れたと言えよう。半裸、ティッシュ装甲、サバイバル縛り、ここまで恩恵の”お”の字もないような待遇だったが、ここに来て漸くそれらしい効能を享受できた。そう、本来称号というからには恩恵でなければならないはずなのだ。こんな不名誉な称号があってたまるか。


「では、早速ハンカチを渡しに行きましょう。」


「ですね、坊ちゃんさんも待ってますから!」


終わるまでが遠足であるように、依頼はまだ終わっていない。スナッチゲーターの素材も余すことなく回収して再び街を目指すのだった。


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