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ユグドラシル~初日に世界を終わらせた男~  作者: 猪突
淵源を知る時
14/16

ダンプカー系ヒロイン

「橘さんはSTRとCRI積みの重騎士ビルドですか?」


目的地までの道中、彼女の装備を見た俺はそう問いかける。

背中に担いでいるのは恐らく初期の大剣。重騎士と言っても、STR&CRIを積んだ完全特攻型タイプもあれば長期戦やクラン単位での戦闘を見据えたSTR&DEF特化のバランス型など、型は無限に存在している。


「はい!初心者には大剣がおすすめだと聞きかじったものですから。」


「確かに覚えることは少ないですし、ゲーム入門としてはとっつきやすいかもしれませんね。」


大剣使いの重騎士と言ったら役割も動きも至極単純なものである。それも攻撃特化のテンプレ型ともなれば脳死で乱舞するだけの脳筋プレイ。上位プレイヤーともなればまた話が変わってくるだろうが、初心者にとって優しいのは間違いない。

逆に初心者にお勧めできないのは、魔術師や弓使いといった後衛職や全てを防御性能に振り切った凸ガーディアンなどが上げられる。こいつらは良くも悪くもパーティー単位で本領を発揮するので、己自身で踏破していく前衛職と違って序盤の攻略が厳しく成長速度も遅い。初めからクランの一員として進めていく手筈と腕前があるならば問題はないがそれなりの覚悟が必要になるだろう。一方、終盤になるにつれて今言った後衛職や特化ビルダーなどは需要が膨れ上がるためどこのクランからも引く手数多のロマンビルドともいえる。序盤に楽をした分、凡百の層にはツケが回ってくるということだ。


「ゲーム初心者ってことは初めてがユグドラってことですか。」


「はい。それまでゲームはからっきしでVRゲームに限らずコンピューターゲームはこれが初めてなんです。」


「それは今時珍しいですね。まあテレビでも広告等でも大々的にやってますから、ゲーム入門がユグドラって人は珍しくないかもしれませんね。」


社運を賭けた大プロジェクトなだけあって、一時間に一度はCMが流れてくるほどだ。


「それもあるんですけど一番は姉の影響なんです。姉はこのゲームを発売直後からやっていて、それを見てたら自分もやりたくなってしまって。」


ゲームにおけるあるある。はじめは見るだけで満足していた筈が気付いたら自分もやりたくなっていた、ゲーマー足る者誰しもが通る道だろう。

意外と会話が弾み、気付くと目的地に到着していた。と言っても樹林全体が捜索範囲のためここからの探索は厳しいものになってくる。


「ここのエリアは初めてですか?」


「はい、馬車に乗ってたら街に着いてましたので。」


どうやら最初のチュートリアルはすっ飛ばしたようだ。それも恐らくチュートリアルと気付けなかった口だろう。流れに忠実すぎるとこのような弊害も生まれてくるのか。


「では一緒に探索しましょうか。」


「いえ、お気遣いなく。どんなモンスターでも一人で相手して見せます。」


初心者を一人には出来ないという俺の気遣いを察してか単身で臨むという。まあそう言ってくれるのならこれ以上の気遣いは野暮だろう。


「分かりました。では見つかり次第フレチャで呼んでください。」


「了解です。ではまた後程」


二手に分かれて捜索が開始される。坊っちゃんとやらがどこで落としたかは不明だが入口付近であることを切に願うばかりだ。





「きゃあああああ」


ほら言わんこっちゃない。開始早々不運にもモンスターと遭遇したのか、彼女の絶叫が木霊する。


「大丈夫ですか!?」


俺は声を張り上げ彼女のもとへ向かう。女騎士がゴブリンに襲われて、あんなことやこんなことをされるエチチな展開を期待…………する筈もなく彼女が無事であることを一心に願った。


「橘さんっ!」


俺は着いた瞬間に一足遅かったことを確信する。全身に刻まれた痛々しい負傷痕は圧倒的なまでの力の差を物語っていた。足腰は震え上がり最早立つことすらままならない様子。悪業を一身に背負った邪悪の権化としてのプライドはどこへやら、集団で強襲を仕掛けた五匹のゴブリン共は……………………………見るも無残さ姿で息絶えていた。


「サ、サカタクさん!」


それをさも傍聴人であるかのような面持ちで見つめている女騎士。さっきの絶叫は何だったのかと問い正したくなる衝動をぐっと堪えて、彼女の安否を確認する。その乙女の柔肌を汚すのはゴブリンの返り血のみ。己で完膚なきまでボコボコにしたにもかかわらず、その表情はあくまでか弱き女騎士のそれだった。


「橘さん、無事で安心しました」


あまりの脳筋っぷりに言葉に感情が乗らない。無傷の女騎士に対してこれ以上歪みようがないほどまでに蹂躙された森の悪戯者。思わずゴブリン達に同情してしまいたくなるほどの惨劇だった。


「ゴブリン達がいきなり飛び掛かってきたんです。私凄く怖くて………………………」


俺はその発言を心の底から真顔で言い放つ彼女に恐怖を覚えた。ゴブリンからしたら軽トラでダンプカーに突っ込んだようなもの。御愁傷様です。

彼女が一人でも何ら問題ないことが証明されたので、心置きなく探索を再開させた。


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