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ユグドラシル~初日に世界を終わらせた男~  作者: 猪突
淵源を知る時
13/16

渋すぎる依頼には寛容な心で

坊ちゃんさんの依頼を引き受けた私は彼から貰った手書きの地図を頼りに神隠しの樹林へと向かう途中だった。


「ど……どうかひもじい私めに施しを…………………………」


街道に座り込んで助けを乞う一人の少年………………変質者を発見する。しかし誰一人として彼に応えようとする者はいなかった。何をしたらこの序盤も序盤でそんな追剥にでもあったかのような情けない格好になるのかと疑問に思いつつも私は素通りすることを決める。現実で引っ込み思案な私が片やゲームの中では正義感溢れる人格者になったりはしない。


「あの、大丈夫ですか」


そう思っていた。気付いた時には口から言葉がこぼれていた。これもきっとお姉ちゃんのおかげだ。意気地なしの自分に勇気をくれたんだ。お姉ちゃんならどうするか、そう考えると少しだけ強くなれる気がするのだ。

彼の私を見る目はまるで生き別れの兄弟との運命的な再開でも果たしたかのような輝きを放っていた。



話してみると彼は至ってまともな人だった。訳あって自分で買い物ができないらしく、代わりに行ってくれる人を探していたそうだ。どんな訳だか気にはなったが、追剥に会うくらいだからきっと私の想像もできないような修羅場を潜ってきたのだろう。ゲーム初心者の私は詳しいことは何一つ分からない為、多様性の一つとして受け入れることにした。


「あ…ありがとう橘さん。」


砥石を彼に渡しておつかい完了。そそっかしい私にしては無事何事もなく終わることができた。

お姉さん、これで私も貴方に一歩近づけたのでしょうか。















「…………………………」


俺は送られてきた砥石を黙々とイベントリに詰めていく。一度に選択できる個数が99個までのため計21回に分けて同じ作業を繰り返さなければならない。その間、俺は自分が置かれた現状を改めて再確認する。


回復手段が完全に途絶えたということは、それ相応のレベリング、立ち回りをしていかなければならないということ。レベルアップ時の基本値ポイントはすべてSP(スタミナ)に回すことになるだろう。こうなった以上HPに振っても焼け石に水、中途半端に体力を上げるより一撃も貰わない前提のビルドを進めるべきだ。しかも防具なしによる防御力全betの機動力特化、STR無効による重量級武器の実質装備不可、俺を取り巻くあらゆる要素が軽戦士との心中を望んでいる。


「サカタクさん、これで全部です。」


全ての砥石を移し終える。ひとまず最優先の目的は果たしたが、このまま解散では手伝ってくれた彼女に忍びない。変質者に加えて恩知らずの烙印まで押されてしまっては堪ったものではないからな。


「ありがとうございました。もしよろしければ何かお手伝いさせてください。」


「いえいえ悪いですよ。私のために時間を取らせるわけにはいきませんから。」


「そう言わずに。困ったときはお互い様、ですよね。」


何もそんなに長居するつもりはない。一つや二つ依頼か何かをクリアしたら解散する予定だ。チュートリアルの街でNPCに相手にされないとなるとここに留まる意味もないため時間もある。


「ではこの依頼を手伝ってもらえますか…………………」


そう言って映し出された依頼を確認する。





依頼:坊ちゃんのワガママ

難易度:★☆☆☆☆

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

:依頼内容

ワガママを言って家を飛び出してきた坊ちゃんは神隠しの樹林のどこかでハンカチを落としてしまったようだ。母上から貰ったお気に入りのハンカチをどうしても取り戻したい坊ちゃんのために手書きの地図を頼りに探してきてあげよう。


:クリア条件

ハンカチを坊ちゃんまで届ける


:報酬金

50ゼニー


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄






「へえぇ……………またゴm……珍しい依頼を受けたんですね。」


想像を絶する極上のカス依頼に思わず本音が零れそうになる。彼女から手渡されたのは二重円の書かれたペラペラの薄紙。まさかこれが手書きの地図だとは信じたくない。もしそうであるならばこの外側の円が神隠しの樹林で、そのほぼ全域を覆う内側の円が捜索範囲ということになる。



「こ…これ地図ですか」


「そうみたいですね」


この中からハンカチを探すなど、砂漠で落としたコンタクトレンズを手探りで探すようなもの。そして小学生のお小遣いでももう少しありそうなほどの報酬金。捜索依頼の為、難易度は妥当だが手間と報酬額が明らかに釣り合っていない。どんなモチベーションでこの依頼を引き受けたのか気になって仕方がない。

砥石二千個じゃ元が取れないどころか追加発注をお願いしたいくらいだ。ただあんな大見栄切っといて今さら食い下がる訳にも行かない。


「神隠しの樹林は一通り探索し尽くしたのでお力になれると思います。」


「ありがとうございます!では行きましょう」


こうして俺は再びあの因縁深い樹林へと足を踏み入れることになったのだった。


このゲームの回復方法として一応セーブポイントでセーブすると全回復できます。ただセーブポイントは各街の宿屋にしかないので実質戦闘時の回復には利用不可能。

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