不運な幸運戦士
「待て待て待て、色々な事が起こりすぎて何から驚けばいいんだ」
後頭部を鈍器で殴られたような衝撃が俺を襲う。始めたてホヤホヤのビギナーに突如課された縛り。まあ要約するとこんな感じだろう。
・全NPC好感度が永久的に0
・よう分からん権能値とかいうステータスの追加
・この先幸運値しか上がらないという圧倒的鬼畜縛り
「俺が何したって言うんだよぉぉぉぉぉぉ」
隠しエリアに喜んだのも束の間、突如世界樹の残滓とかいう精霊さんの聖水をぶっかけられた挙句、盗人扱いされる始末。俺のユグドラライフは一夜にして崩壊の一途を辿って行くのだった。
まず好感度とは何ぞや、というところから始めなければならない為ひとまずこれは置いておいて…………………………
俺は涙目になりながらステータス画面を懐かしむような気持ちで眺める。
STATUS
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プレイヤーネーム:サカタク
レベル:10
職業:なし
属性:なし
称号:時代の略奪者
基本値
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HP(体力):100
SP:140
MP(魔力):10
能力値
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STR(筋力):0
AGI(俊敏):0
CRI(会心):0
DEF(防御):0
RES(抵抗):0
LUC(運気):150
AUT(権能):0
「お、俺のSTRにAGI……………………お前らどこに消えちまったんだよぉ…………………………ひぐっ」
数分前までそこに並んでいたはずのステ値たちは突如姿を暗ました。そして代わりと言わんばかりに後尾に鎮座する三桁のLUC。しかもその150という数値は他のステ値の合計と奇しくも合致する。運悪くランダムで幸運(LUC)を引いてしまう、最早捻りの効いた皮肉にしか聞こえない。
「しかも権能値ってなんだよ」
新しく追加されたステ値は他と同様0だった。LUCしか上昇しないという縛りは受けないものの、そもそも何に関する数値なのかすらわからない為この段階で評価するのは難しい。
「まあとりあえず戻るか。双剣を買って気持ち切り替えていこう。」
自分を鼓舞しつつ、ワンティアに戻ることを決める。
「お……おい。そりゃどういう事だよおじさん!」
ワンティアに到着した俺はおじさんの言葉に耳を疑う。
「だから言ってんだろ小僧。お前みてえなクソガキに売る武器なんかねえんだよ!二度と来んじゃねえぞ」
ワンティア到着後、スネアスネーク10匹の討伐を完了した旨を伝えるべく武器屋のおじさんを訪れた俺だったが、突如門前払いを受ける羽目に。まるで朝とは別人格化のような変わり様に目を丸くする。
プレイヤーならまだしもNPCにまで拒絶されるとは世も末だな。ただ原因は分かり切っている。あんなことがあった後で気付かないほど鈍感ではない。
試しに雑貨屋のおじさんにも話しかけてみたが同様の反応が返ってきた。ここらで漸く自分が立たされている状況を理解する、そしてこのゲームにおいて如何に好感度が重要かも。
これ詰んでね?
基本的に必需品と呼ばれる道具はすべてNPCを介して売買される。その為NPCとの接触の一切が断たれた今の俺は完全な無力だ。具体的に言うと
・武器、防具の購入不可(現在木棒同然の短剣に半裸)
・調合書や研石などの必需品購入不可
更に治る見込みは現状皆無。
「ま………まあまだ希望はあるさ。こういう時こそ先人の知恵に頼らなくては。調べればいくらでも解決策は見つかる……………………よな。」
俺は一度ログアウトして、早急に検索ページへと飛んだのだった。
結果から言おう、該当するものは何一つ見つからなかった。
あの隠しエリアに関しても未発見なようで掠りもしなかった。当然称号:時代の略奪者もヒットなし。
念願だった双剣は入手直前でまさかの頓挫を食らい、現状俺にとって唯一の稼ぎ柱であるNPCからの依頼も受けられなくなってしまった。
しかもこのゲーム、武器はモンスターからドロップする場合もあるようだが、防具に関しては完全にNPCの介入が入る。これ即ち未来永劫半裸が確定したことを意味する。
「これからどうすっかなぁ…………………俺はこれから何をモチベーションに何をするのが正解なんだ。」
こうして金なし防具なし備えなしの三重苦と片手に棒切れ、それとおまけ程度の幸運を胸に俺のユグドラシルは幕を開けたのだった。