ゲームを生業とする者
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昔、殺人事件があったと噂の館に度胸試しと称して集まった鈴木太郎と四人の仲間達。仲間の反対を押し切り肝試しを始めた太郎だったが、突如仲間の身に不可解な現象が起こり始める。独りでに施錠される玄関扉、一人ずつ消えていく仲間、誰もいないはずの部屋から響く足音。
夜はまだ始まったばかりだ
「太郎の野郎………………………………」
行き場のない恐怖と怒りをゲームの舞台設定上の主人公へと向ける。
お前三作品連続で幽霊屋敷行ってんだからそろそろ自分がそういう星の下に生まれたってことを自覚しようぜ……………………ヒロインの歩美ちゃんなんて全部お前のせいで死んでんだからな。
ギィィィ
その時だった。床板が軋む耳障りな音が耳にへばり付く。ゆっくりと近づいてくる”それ”は消えそうな声で何かを呟いていた。しかし自分の拍動の音で掻き消され、それどころではない。通り過ぎてくれることを一心に願い、掃除用具入れの僅かな隙間から外を覗き込む。
(落ち着け…………ルート的にトイレ帰りの可能性大。ばあちゃんの受け売りだが夜間頻尿は高齢者の特権であり責務だ。今なら見なかったことにしといてやるから早く消えてく……………………)
奴が俺の隠れている用具入れの前で足を止める。しゃがみこんでいるため奴の顔は見えないがその代わりに扉の隙間からべっとりと血痕のついた手斧だけは見える。
もしこの扉が開いた時には……………………
想像するだけで身体中から熱が逃げていく。チビりそうな股関に力をいれて息を殺す。他人の膀胱の心配をしている暇はどうやらなかったようだ。
…………ガチャ
建付けの悪い扉がこんな時だけすんなりと開く。願いも虚しく扉に立てかけてあった伯耆が冷たい床に叩きつけられる。
「ぎぃやああああああああああああああ」
断末魔は屋敷内を駆け巡って俺の耳に届く。ああ、ごめんばあちゃん、俺ここまでみたいだよ……………………ってえ?俺じゃないの?
ゆっくりと目を開けると扉は閉じたままで、まだ吐息の温もりを感じる。思い返してみたら奇声は俺の真横から聞こえてきた…………ということは…………
恐る恐る扉を開くと隣には開かれたロッカーと血まみれで突っ伏した「アフロ」の姿があった。この無様な顔を目に焼き付けておきたいところだが油断は禁物。
ババアは………いないな。よし、俺様は早めにここからずらからせてもらギィィィィィ
事のすべてを悟り、一瞬にして血の気が引いていく。奇しくもババアと同じトラップにかかるという痴態。そして少しずつ迫ってくる足音は先ほどよりも荒荒らしくて急いていた。この死を目前に控えた状況に脚と口が小刻みに震えだす。
「あ………………え………………え………………」
身体は生きることを放棄し残りの主導権をすべて思考へと譲り渡した。その結果、脳内では思考することを思考するというカオスが発生。考える方法を忘れた知的生命体はアホ面を掻きながら口をパクパクさせていた。
「えぎゃああああああああ」
そして登場、老婆唖。羅生門に居そうな風貌のババアが奇声を発しながら俺へと襲い掛かってくる。金魚と化した俺は迫りくる死を全身で感じてエラから逃がそうと試みるが即断念。大口を開けて首筋へ飛び掛かってくる老婆に向かって、その如何にもな斧は使わないんかい、と軽く突っ込みたくなる気持ちを抑えて潔く死を受け入れる………………………………はずだった。
「ふぎゅっ」
奇怪な声と共に俺の視界から突然老婆の姿が消える。一瞬何が起きたか分からなかったが、視線を下げると俯せのババアと目が合う。奴の足元には「アフロ」の死体がぶちまけられており、どうやら自分で作った死体に足元を掬われた模様。
ぶつかった反動でアフロの頭部が転がって、偶然にも視線が交錯する。
その瞬間、身体中を強烈な悪寒が駆け抜けた。死を目前にしても理解が追い付かなかった能無しに嫌でも分からせてやるという死者の怨念だろうか。
「ぼぎゃああああああああああああああ」
気付いた時には一心不乱に走り出していた。訳も分からずただ大声を張り上げながら二階の廻廊を爆走する。自分の絶叫が恐怖を逆撫でしていることにも気づかない負のスパイラルが起きていた。
この後どうする?朝まで逃げ回るか?逃げ切れるのか?というか「きんぴら」はどうした?生きてるのか?
頭の中では?の大渋滞が発生し、考えがまとまらない。しかし天は最後まで俺を見放さなかった。屋敷の窓枠から文字通り希望の光が差し込む。それは玄関扉の解放というクリアへの狼煙でもあり、最後の難関でもあった。
二階から玄関口の扉が解放されたのを確認。
「行ける!行けるぞ!」
俺は光に導かれるまま廊下を駆け抜ける。
「いぎゃあああああああああ」
そして光に導かれた者がもう一人
「きんぴら(サカタク)そこどけぇぇぇぇぇ!……………え……………えぇぇぇお前何連れてきてんだよぉぉぉぉぉ」
一本道の廊下の向かい側から全力疾走で迫ってくるきんぴら………………………………とその後ろから迫りくるジジイ。そう、朝になると玄関口の扉と共にジジイが屋敷に解き放たれるのだ。隠密用の扉はすべて施錠され、最後の追いかけっこが始まる。
両者ともに相手の背後から迫る老人に驚嘆の雄叫びを上げる。ここにきて老夫妻は廊下での挟み撃ちという驚異的な連携プレイを見せてきた。
「きんぴらお前逆走しろ!」
「無茶言わないでくださいよ!自分から盆栽に殴られに行けっていうんですか!?」
「そうだよ!鈍器なんて表面積でかいんだから唾つけとけば治んだよ!こちとら血まみれの斧持ってんだぞ!」
走りながら交わされる醜い言い争いは結局どちらも譲ることなく、天から垂らされた救いの糸が回収されていく。追い詰められた二人は互いを盾に前方から迫りくるジジイとババアに対抗する。互いに顔を見合わせて恐怖を共有しようとするがその間わずか数秒。ジジイとババアが奇声を発しながら容赦なく武器を振り上げる。
「「ぎゃああああああああああああああああ」」
「「いやあああああああああああああああああ」」
本編は次話からなのでセットで楽しんでくれると幸いです