トール侯爵家主催のパーティー
「お姉様、パーティーにちゃんと来てくださいね。」
シリルはそう言うと、両親と共に馬車へと乗り込み、トール侯爵邸へと出発した。私は一人、別の馬車に乗り、パーティー会場であるトール侯爵邸へと向かった。
本当は行きたくないけれど、シリルとダンカン様の婚約を発表するパーティーだと言われ、家族は全員出席しなければならなかった。
きっと今日も、シリルは私を貶めようとするつもりなのでしょう。一ヶ月前の、学園ダンスパーティーとは違い、今回は逃げる事は出来そうにありません。覚悟を決めなければいけませんね。
楽しい事を考えましょう。
この一ヶ月は、学園がお休みだったこともあって、家庭教師をする時間が増えていました。プリシア王女と過ごす時間は、本当に楽しくて……って、お勉強を教えているのに、楽しくては変ですね。そういえば、家庭教師の度にロイド様が差し入れをしてくれました。美味しいお菓子をたくさん頂いて、少し太ってしまったかもしれません。
楽しい事を考えていたら、あっという間にトール侯爵邸に到着してしまいました。
会場へと足を踏み入れると、学園のダンスパーティーとは違い、とても豪華でとても煌びやかな会場に、大勢の貴族達が集まっていました。
ダンカン様とシリルは、私が到着したのを確認し、壇上へと上がった。
「皆様、トール侯爵家主催のパーティーへとお越しいただきありがとうございます。本日は、我が息子ダンカンの婚約者を紹介したく、このようなパーティーを開かせていただきました。」
最初に話し出したのはダンカンの父、トール侯爵。トール侯爵が挨拶を終えると、ダンカンが前に出た。
「ダンカン・トールです。本日は、私達の為に、お忙しい中お越しいただき、ありがとうございます。婚約者である、シリル・ランバートを紹介致します。」
ダンカンに呼ばれ、シリルも前に出る。
ダンカンの婚約者が、セシディだということは皆知っていたが、学園ダンスパーティーの時の事を息子や娘達に聞いたのか、驚く者はいなかった。
「シリル・ランバートです。ダンカン様は、姉である、セシディの婚約者でした。お姉様はずっと容姿や成績の事で、私をバカにしていました。毎日毎日バカにされ、涙が枯れるほど泣きました。そんな時、ダンカン様がお姉様ではなく、私を選んでくれたのです ……ぅっ……グスッ……ヒック……」
泣き出したシリルに、会場にいる貴族達は同情し、同時に私を睨んできました。
分かっていたことですけど、やっぱり辛いです。この場から逃げたい……でも、逃げる事は出来ません。こんな妹でも、私の家族です。妹の婚約パーティーから、逃げ出す姉にはなりたくありません。
「シリル、大丈夫か? セシディ!! シリルに謝れ! 今まで、シリルにして来た事を謝罪しろ!!」
謝罪……!?
「私は、謝罪しなければならない事はしていません。」
そう、いつもの無表情で話したことが、この場にいる貴族達のセシディへの視線を更に冷たくさせた。
こんな目にあっても、私の表情が変わる事はないようです。
「ふざけるな!! お前のその不気味な顔で、何度も何度もシリルを侮辱したんだろ!? お前は、気色悪いんだよ!!」
キィ……会場への入口の扉が、静かに開いた。
「いい加減にしろー! センセイを泣かせるやつはゆるさない!! 」