ダンカンとシリル
学園のダンスパーティーに出席する為に、馬車に乗り込み会場へと向かう。
馬車に揺られながら、これから起こることを考えると憂鬱になる。でも、今日が終われば、1ヶ月間のお休みが待っている。
パーティーで誰かと踊った事は、一度もありません。本当なら、今日はダンカン様と踊れていたのかもしれなかったのですね。
会場に到着すると生徒達はいつもとは違い、煌びやかなドレスを身にまとっていた。
この中で一人なのは、私だけかもしれませんね。まあ、いつもの事ですけど。
ゆっくりした曲が流れ始め、生徒達はパートナーと共に踊り始める。
「どうしてセシディ様は、お一人なのかしら?」
「確か、婚約者がいたはずだよな。」
「ダンカン様なら、先程お見かけしましたわ。」
一人でいる事を不思議に思った生徒達が、噂し始めた。
「ダンカン様は、シリル様とご一緒でした。」
「ダンカンは、セシディ様の婚約者では?」
生徒達の間で噂話が始まった所で、
「皆、聞いてくれ!」
ダンカンが壇上へと上がり、話し始めた。
「この場を借りて、発表したい事があります。私は先日、セシディ・ランバートとの婚約を破棄し、シリル・ランバートと婚約をしました。」
ザワザワザワザワザワザワ……
ザワつくのも無理はない。姉との婚約を破棄し、妹と婚約をすると言っているのだから。
「ダンカン様は、セシディ様を捨て、妹を選んだって事?」
「仕方がないのではないか? いくら美しくても、無表情な妻などごめんだからな。」
「あんなに美しいのに、なんだか哀れね。」
皆が、哀れんだ目で私を見てくる。分かっていたことですけど、辛いです。
「皆さん、聞いてください。お姉様は冷たい方です。ダンカン様が婚約を破棄された時も、表情一つ変える事はありませんでした。お姉様は、あの容姿ですから、いつも私は比べられて来ました。お父様もお母様も、美しいお姉様ばかりを可愛がり、私は褒められたことがありません。成績も、皆さんが知っている通り、学園で一番という優秀さ。お姉様はあの冷たい表情で、いつも私をバカにして来ました。でもダンカン様は、そんな姉より、私を選んでくれた。グスッ……私は……ぅぅ……私は、ダンカン様と出会えて幸せです!」
シリルの目的は、これだったのですね。
今まで哀れんだ目で私を見ていた生徒達は、今度は蔑んだ目で私を見ています。
「表情が冷たいだけでなく、本当に冷たかったんだ……」
「同情して損したわ!」
「見た目だけでなく、中身もそのままだったとは……」
これで私は、学園中の敵になったのですね。
皆の視線がセシディに集まっていた時、
「私と踊っていただけませんか?」
その声と共に、セシディの前に右手が差し出された。