ランバート侯爵家
「どうしてこんな事に……」
ランバート侯爵は何もなくなった邸の中で、頭を抱えていた。
セシディは、トール侯爵家のパーティーの後すぐに、祖父であるドレイン侯爵の養子になっていた。
そして、パーティーから2ヶ月、セシディの祖父、ドレイン侯爵からの援助が打ち切られ、ランバート侯爵家は借金のかたに全ての財産を没収された。邸を売り払っても到底返せる額ではなく……
「よし! 逃げるぞ!」
「お父様!?」
「あなた……逃げるって何処へ?」
「どこでもいい! もうこの国には、私達の居場所はないんだ。」
シリルの母ルージュはランバート侯爵に嫁ぐ前は男爵令嬢だったが、ルージュの父は一代貴族で、既に亡くなっている。頼れる親戚も、友人もいないランバート侯爵夫妻は、借金を返せる宛もなくなったことで、この国から姿を消した。
ランバート侯爵夫妻が姿を消した後、邸は売りに出され、その邸をドレイン侯爵が購入した。
「お祖父様、本当に良かったのですか? 私は王室に嫁いでしまうので、あのお邸に住むことは出来ません。」
「かまわんさ。お前が帰りたい時に帰ればいい。」
「お祖父様……ありがとうございます。」
「そろそろ家庭教師の時間か。遅れたら、王女様が心配される。早く行きなさい。」
ロイド様と婚約してからも、家庭教師の仕事は続けています。学園にも通い、王妃教育も受け、家庭教師もしているので、忙しい日々を送っていますが、とても充実した毎日です。
「センセイ!」
いつもの時間に王城へと訪れると、いつものように、プリシア王女が1階で待っていてくれる。
「プリシア王女、お部屋で待っていてくださいと、何度言ったら分かるのですか? 」
「だって……センセイに早く会いたかったんだもん……」
目をうるうるさせながら訴えるプリシア王女。
「その手はロイド様ならともかく、私にはききませんよ。」
「むー! お兄さまなら一発でだまされるのにぃ!」
「何の話をしているんだ? 私なら騙されるとは?」
「何でもありません! さあ、お勉強を始めますよ。お部屋へ行きましょう。」
「はーい。センセイ!」
二人は手を繋ぎ、部屋へと向かう。
「おい! 私を仲間外れにするな!」
「お兄さま、男のヤキモチは、みぐるしいですよ。」
「お前はまた……そんな事を、誰から教わったんだ!?」
「私ではありませんよ。」
「当たり前だ! 純粋なセシディが、そんな事を教えるわけがない!」
その瞬間、セシディとロイド王子の顔が真っ赤に染まった。ロイド王子は、自分で言った事に照れ、セシディはロイド王子の言葉に照れた。
「センセイもお兄さまも、また真っ赤っか。赤くなるのは、テレているのですね。侍女が言っていました。」
プリシア王女に色々教えていたのは、侍女だった。だが今は、二人共それどころではなく、プリシア王女が言った事は聞こえていなかった。どうやらその侍女は、命拾いしたようだ。




